「君たちの20代を預けるに足る会社か、見極めて欲しい」変わりゆく巨人、株式会社LIXILから学生への問い
旧来、「大企業」と呼ばれて会社が、変革を遂げようとしている。住宅設備メーカーとして2024年には売上高2兆円を目指す株式会社LIXIL(以下「リクシル」)だ。リクシルは、トステムやINAXという会社が経営統合されてできた、100年以上の歴史を持つブランドを有する老舗企業だ。売上高の4分の1ほどを既に海外で産むなど、グローバル企業でもあり、その範囲はアジア、欧州、北米、アフリカなど全世界に及んでいる。
メーカーとしての印象が強いリクシルだが、近年はデジタル化にも力を入れており、デジタル人材が強く求められるようになってきた。そんなリクシルが2020年10月、学生に向けて機械学習を用いたハッカソンを開催。その後、2020年12月にはハッカソンの上位入賞者とデジタル領域、新規事業領域の社員が情報交換、パネルディスカッションを行う場が設けられた。そこでリクシルから学生に向けて発信されたメッセージ「リクシルが君たちの20代を預けるに足る会社か、見極めて欲しい」の真意とは。 ※当日は検温やソーシャルディスタンスの徹底など万全の対策をとった上で実施
デジタル化による生産性改善、新たな顧客価値創造は急務、変わりゆく巨人、リクシルが見据える世界
リクシルと聞いても、あまりデジタルに力を入れているイメージは湧かないだろう。しかしリクシルは現在、組織改革を行っており、それと共に大胆なデジタル化への投資、挑戦を行っている。
デジタル部門 基幹システム統括部 統括部長である岩崎氏が、クラウドテクノロジーを用いた変革の推進や、 I Tリーダのコミュニケーションサポートを目的とするGoogleユーザー会の会長を務めていることからも、その積極的な姿勢が伺える。
リクシルのデジタル化、データ企業化の一つの事例が、U2-HomeⅡ(ユースクエアホームツー)だ。U2-HomeⅡは、IoTスマートホーム実現のため、リクシル社の敷地内に建てられている一般家屋で、内部には多数のセンサー等が設置されており、「快適な生活の自動制御」のためのラボとして機能している。事業機密性が高いため一般公開はされていないが、この日、学生たちに公開され、彼らは「未来の住まいのあり方」を体感した。
「快適さ」をデータから推測し、それに基づいて湿度や温度、照明などを自動制御することで、家はもっと快適な空間になっていく。こうした考え方からリクシルは、2015年からこのように実際の住宅を用いた実証実験を行い、データの蓄積や利活用を行っている。
機械学習でキッチンの稼働状況を把握、専用施設・ラボも社内に設置してスムーズな事業連携を実現
リクシルのデジタル化のもう一つの事例をご紹介しよう。この日学生は、リクシルの社内にあるキッチンの見学も行った。そこもラボとして利用されており、多くの人に実際に調理をしてもらい、その様子を画像認識、ディープラーニングによって作業内容を認識することで、より使い勝手の良いキッチンの提案を商品化していくことが一つの狙いとなっている。
リクシルの強みの一つは、このキッチンにもU2-HomeⅡにも現れるように、「実際の暮らしのデータを直接取りに行く」という姿勢にあるだろう。会社内にデータ取得用の住宅や専用キッチンを作ってしまうということは、単に資本体力の問題だけでない、何に投資をしていくのかという意識の表れと取れる。また、濵氏のように、社内で機械学習、深層学習を実践できる人物が複数いることで、仮説検証がスピーディに行えているという点も、デジタル化の一部として重要な点だ。
目の前の仕事にも、10年後の未来にも本気。リクシルの各事業部社員と学生のディスカッションに潜入
6万人近い従業員数(2020年11月時点)を抱えるリクシルには、さまざまな仕事がある。生産現場に入って目の前の課題を解決していくものから、今ある技術を使って1〜3年後の商品開発を行うもの、そして先程の濵氏のように5年後、10年後の未来の種を見つけるものまで、幅広い。この日は、そんなさまざまな事業部の従業員が、学生とパネルディスカッションを行う場が設けられた。
やはり学生の興味関心は、機械学習やプログラミングなどを強みとする人材が新卒採用で入社した時に、各事業部でどのように活躍できるのか、どんな人材が求められているか、ということだ。
例えば新規事業部の場合、「最初に要件定義だけして、開発は外注」というような体制とは真逆、非常にLEANな進め方を採用している。まず、役割にかかわらず部メンバー全員が企画を行う。つまり、部全体でエンドユーザーである顧客の課題に向き合い、顧客に対してどんな課題解決ができるか、価値提供ができるかを考えることから始まるのだ。その上で、企画したものは部内でスピーディにプロトタイプを開発し、社内を中心にヒアリングを行うことで仮説検証プロセスをまわして具体化させていく。
まるでベンチャー企業のようなスピード感で、「仮説を立ててまずやってみる。そんなカルチャーを大切にしていて、結果として上手くいかなくても怒られる雰囲気は無い。改善してもう一度やってみればいい。最終的に事業化するのか判断するのは上司の仕事だから、まずはとことん顧客に向き合って挑戦することが大事」(新規事業部平田氏)というスタンスだ。
また、R&D(研究開発)では「自分でこれがやりたい」という意志が非常に大事だという。R&Dは5年後、10年後に向けての試行錯誤を行うため、すぐに成果が出ないことがほとんどで、それでも自分の意志を持って続けることが求められるからだ。逆に言うと「やりたい」と手を挙げるとそれをサポートしてくれる体制があることがリクシルの強みであり、魅力だろう。
さらにここで、ハッカソン技術メンターを務めた栗本氏から、「本音で、採用のためのポジショントークではないお話しなんですが…」という前置きがあり、学生に対してのメッセージが投げかけられた。
「大事なのは、リクシルが君たちにとって、貴重な20代を預けるに足る会社かどうかだと思うんです。それをぜひ見極めてほしい。僕ら(社員)は、自信を持って素晴らしいフィールドだと思っていますが、君たちがどう判断するのか、よく観察して、よく考えてもらえたらなと思います」
リクシルに、成長するフィールドがあるのか、挑戦できるフィールドがあるのか。学生を主語にした問いかけをしてくる。リクシルがどのように人と対峙しているかを凝縮しているようなフレーズではないだろうか。これからますますデジタル化、データ化に邁進していくリクシルで、あなたのキャリアを描ける可能性があるかどうか、検討してみるのも面白いかもしれない。