【第二回】豊田自動織機主催ソフトウェア開発インターンシップ 優秀チームインタビュー

小野能輝さん(左)、石田耕生さん(中央)、蕗谷一貴さん(右)

昨年好評を博した豊田自動織機主催・チーム制ソフトウェア開発インターンシップ「多様な事業領域で世界トップシェアを誇るグローバル企業と物流・産業車両の未来を描く3Days」が2022年11月16日(水)、17日(木)、18日(金)の3日間にわたり開催された。

1926年の創業以来、繊維機械部門・自動車部門・産業車両部門など多様な分野での事業展開してきた株式会社豊田自動織機。本イベントは、同社の幅広い分野の中でも産業車両・物流ソリューションの部門にフォーカス。業界トップランナー企業の現場を担う社員と一緒に、物流ソリューションにおけるデジタル・AI技術を用いた新たな価値創造について考えるプログラムだ。

株式会社豊田自動織機は、社祖・豊田佐吉が発明したG型自動織機の製造・販売のため創業。その後、事業の多角化を進め、繊維機械、自動車、産業車両、エレクトロニクスと事業領域を拡大。世界各地にグループ会社を保有するグローバル企業でもあり、関係会社数は2021年度末時点で276社を超え、従業員数71,748名のうち半分以上の従業員が海外にて活躍する。

プログラムは、1~2日目にハッカソン、3日目はソフトウェアエンジニアとの座談会やプロジェクトマネージャーから技術開発への想いを聞き交流する2部構成。ハッカソンでは参加者が数名のチーム単位で活動。多様なスキル・バックボーンを持つ参加者同士で知識を出し合い、相互に学び合う環境が整えられた。さらに、豊田自動織機の現役社員がメンターとして参加、個別のフィードバックも実施された。

学生たちは3日間、自動運転フォークリフトの開発体験や、産業車両・物流の未来に触れるコンテンツを通じて、同社の価値創造のプロセスや最先端技術への取り組みなどを学んだ。チームで難題に挑戦し、コンテンツや先輩社員から新たな知識を得られ、自分自身の今後の活躍の可能性を伸ばすことのできるプログラムとなっていた。

本インタビューでは、1~2日目のハッカソンにおいて最優秀賞に輝いたチームの皆さんにお話を伺った。

最優秀チームメンバー
石田耕生さん–富山大学大学院 理工学研究科 理工学専攻
小野能輝さん–名古屋工業大学大学院 工学研究科  情報工学系プログラム
蕗谷一貴さん–九州工業大学大学院 工学専攻 知能制御工学コース
村松祐介さん–名古屋大学 工学研究科 機械システム工学専攻

村松さんはハッカソン後に所属研究室関連のご予定があったため、石田さん・小野さん・蕗谷さんの3名へインタビューを実施いたしました。

―大学での研究内容を教えてください

石田さん:
研究室では、災害ロボットにロボットの協調行動を適用することを見据えた研究のひとつである「移動ロボットを用いたスワームロボティクス(※1)」の開発に携わっています。

※1 複数のロボットを「群知能」をもとにして一つの生き物の群れのように自立分散制御する技術分野。

小野さん:
大学では、画像中に存在する散乱媒体を画像中から取り除く画像処理研究を行っています。

蕗谷さん:
普段は、メタ学習を用いて外観検査での異常検知を行い、AIによる工場の自動化を実現するための研究をしています。

―ハッカソンへの参加を決めたポイントを教えてください

石田さん:
もともとAIや機械学習に興味があったことに加え、知能機械系の研究室に所属する学生として、強化学習に少し触れておきたいという想いがありました。
強化学習に関しては触ったことがある程度でした。参加することによって、最先端のAIや強化学習を肌で感じられるのではないかと考えてエントリーしました。

小野さん:
研究室の先輩が去年同じハッカソンに参加していて、その方から雰囲気や内容を聞いて面白そうだと感じたことがきっかけです。
私も強化学習の経験はほとんどありませんでしたが「未経験の自分でもついていけたので、参加してみるといいよ」と先輩から背中を押してもらったこともあり、この3日間を楽しみにしていました。

蕗谷さん:
普段の研究では深層学習を使用しており、強化学習に関しては全く経験がありませんでした。一方、友人や他の研究室の先輩が強化学習を用いるのを見ながら、自分もやってみたいと感じていました。
今回のハッカソンでは、募集要項に未経験者の参加が可能と書いてあったので、自分でも挑戦できるのではないかと思い参加を決めました。

―参加してみていかがでしたか?

石田さん:
チーム戦で参加できてよかったと感じています。自分一人では思いつかないような発想や報酬の与え方、パラメーターの触り方など、特にアイデア面においてチームの皆さんに助けられました。今後は普段の研究にも強化学習を使っていきたいと考えているので、今回のハッカソンは自分にとって大きな経験になりました。

蕗谷さん:
普段の研究は、一人で課題見つけてひとつの解決策を講じる形で進めています。ですが、このハッカソンでは、まず皆で話しチームの方向性を固めてから、それぞれが実践すべき解決策を決めて同時進行で取り組みました。(個人での開発と比較して)チーム開発のスピードの早さを実感しました。

小野さん:
私も研究室では基本的に一人で研究を進めるため、問題が出てくるたびに自分で解決策を探して試します。今回はチーム開発で、仲間から解決策に対するアドバイスが得られたことが普段の研究との大きな違いでした。
大学での研究では企業で使われている複雑なプログラムを実際に見ることはほとんどありません。このハッカソンに参加できたことで、すでにあるプログラムを読み解き、どこを触ったらどのように変化するのかを理解する能力がついたように思います。

―好成績を修めましたがどのような工夫をしましたか?

小野さん:
例えば数字の絶対値の表し方のような、プログラムの書き方の部分については自分の持っていた知識を活かせたと思います。またチームの共通認識として「まずやってみよう」という試行錯誤する姿勢があったからこそ、うまくいったように感じています。

石田さん:
まずは各自でやってみた結果を共有し「こういう改善点があるのでは」と、改善点を共有したあと、さらに新しい対策を各自で実践し、結果を共有する繰り返しが良かったと思います。

蕗谷さん:
とても優秀なチームの皆さんに助けてもらいました。皆さんから得られた知識や発想を振り返ってみると、ひとつひとつの細かい積み重ねがたくさんあったように思います。皆が肯定的で「これやりたいね」「じゃあやろう」といった流れを誰かが否定することはありませんでした。その分、いろんな可能性を広げられたのではないでしょうか。

小野さん:
実は初日の時点で既に良い結果が出ており、提出できるような状態でした。しかし、そこで満足せず、もっと早くできるのではないかとぎりぎりまで改善に取り組んだことが、結果として優勝につながったのかもしれません。

蕗谷さん:
初日の時点である程度うまくいっていたので、2日目の午後からはスライド作成の時間にあてようと計画していました。しかし結局ぎりぎりまでプログラムの中身を試行錯誤し続けました。本当に偶然うまくいったという感じで、最後まで悩みながら、なぜうまくいっているのか言語化・可視化できない状態でした。どこを直せばいいのか具体的にわからなかったのが、最も苦労した部分と言えます。

石田さん:
(初日時点でうまくいったのは)運かもしれないという側面があり、改善にかなり苦戦しました。なぜうまくいっているかが可視化できない問題については、最後まで根本的な解決には至りませんでした。結果の再現性という意味では「良い結果を使ったプロセスを使って転移学習(※2)させたことで、より良い結果を出せた」というのはあります。結果的に、失敗したところだけではなく、うまくいったところにも振り返る時間を持つことができたのはよかったです。

※2 学習済みのモデルをベースにすることで、より効率的な学習を行う手法。ここでは、初日時点で成績の良かった値を次の仮説検証時の初期値とする形で転移させている。

もう一人のチームメンバーである村松祐介さんについて、印象をお聞かせください

蕗谷さん:
本当にアイデアマンという感じで、「こうやったらいいんじゃない?」というアイデアをたくさん出してくれました。そこから新しい仮説が立ったり、なるほどなと思うことも多々ありました。

小野さん:
プレゼン資料の作成時など、グループディスカッションでのまとめ役を担ってくれました。とても助けてもらったなと思っています。

石田さん:
積極的に発言をしてアイデアを出してくれる方で、発想に富んでいるなという印象でした。プログラミングの専門知識にも明るく、その面でもたくさん助けていただきました。

―主催企業やメンターの印象について率直な感想を教えてください

石田さん:
最初は緊張してうまく話せず、会話が少なくなることもありましたが、メンターの方から積極的にお話しいただき、学生から質問しやすい雰囲気を作っていただいたので、とても会話しやすくなりました。最後に取り組んだ転移学習は、もともと知識が少なかったので、メンターの方のわかりやすい説明やアドバイスが、スコアに大きく影響したと感じています。

蕗谷さん:
エンジニアの皆さんに対しては、硬い印象の人ではないだろうかと先入観をもっていました。
実際にメンターの方と接してみると「私のことは気にせず、ラジオ解説だと思って聞いてください」と空気を和ませ、そのまま20分ほど解説を続けてくださる方でした。おかげでとてもリラックスした状態で課題に取り組むことができました。最後の解説では、課題をクリアする際に、顧客がその後どう使うのか考える重要性が示唆されました。大学の研究では顧客体験まで見据えることは少ないため、一歩先まで考える必要性について知ることができました。

小野さん:
学生たちで会話をしているところへ自然と入り、詳しく説明してくれるメンターでした。参加前は、高い技術力をもつ方だからこそ学生側にも高度な知識を期待しているのではないかだろうか、厳しい方なのではないかと緊張していましたが、実際にはとても親身になってくださいました。プログラムを書いているときには「学生だとこれでいいけれど、企業で仕事をするならこういう風にもできるよ」といった感じで、細かいところまで親身になってアドバイスをいただきました。

―今後、どのようなチャレンジをしていきたいですか?

石田さん:
直近の目標としては、大学でのスワームロボティクスの研究にこのハッカソンでの経験を活かしたいです。将来的にはますます技術がハード面だけではなく、ソフト面で重要視されてくると見ています。長期的にはソフト面にも強い人材になりたいと考えています。

小野さん:
強化学習は自分の研究に組み込める部分もあると思うので、そこを挑戦してみたいと思っています。長期的な視点では、今回の自動運転のフォークリフトのように目に見えて便利になっていくモノづくりの世界で活躍できるような人材になることが目標です。

蕗谷さん:
今後も新しいことに挑戦し続けようと思います。
今回の経験から、ソフトの理論上のことだけ考えていてもうまくいかないとわかりました。ハード面について知ることで、より良い最適なものを作ることができると感じたので、ハード・ソフトを問わずいろんなことを学び続け、将来はソフトウェアエンジニアとして自動車業界に携わりたいです。

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