大転換期を迎えている自動車業界。トヨタグループの素材メーカーが追求するAI活用のビジョンと現場に迫る。

自動車産業の草創期、「国産車の生産に不可欠な鋼をゼロからつくる」という高い志で創業した愛知製鋼。自動車に使われる「ハガネ」の製造から始まり、現在は、素材の進化で社会に新たなソリューションを生み出すことがミッションとなっている。一見するとAIとは関連性が薄いように思える同社だが、実は2015年から愛知製鋼を含むトヨタグループではビッグデータ研究会を立ち上げたほか、2022年度の新卒採用からは、情報系に特化した領域採用を行うなど、実はAIの利活用に非常に積極的な企業だ。そんな愛知製鋼の部品開発部でビッグデータ解析・機械学習・AIを担当している村瀬博典氏に話を伺った。

自動運転技術など、100年に一度の大転換機を迎えている自動車業界

愛知製鋼は、創業者、豊田喜一郎の「よきクルマは、よきハガネから。」という熱い思いから誕生した会社です。 創業以来、トヨタグループの素材メーカーとして、主に特殊鋼、鍛造品、電磁品の製造・販売しています。

自動車業界はいま、100年に一度の大転換期を迎えています。CASE(コネクティッド化・自動運転化・シェアサービス化・電動化)と言われるように自動車のあり方が大きく変わってきており、素材メーカーにもそうした変化に対応するための技術開発が求められています。自動運転の実現は、自動車業界の大きなゴール。その目標に向けて、AIの利活用に積極的に取り組んでいます。

当社がデータ分析に本格的に取り組み始めたのは2015年。トヨタグループが一丸となりビッグデータを活用しようと宣言し、ビッグデータ研究会を立ち上げたのです。当時の私はデータ分析に関してはまったく知見がありませんでしたが、ぜひ参加してみたいと思い、自ら手を挙げて研究会に参加しました。

子どもの頃の気持ちを思い出し、知識ゼロからデータ分析の世界へ

知識ゼロで臨んだ研究会。何を言っているのかわからずじまいで、心が折れそうになりました(笑)。それでも、AIは面白い!と感じましたね。何十年も作り続けている素材があるので、その蓄積されたデータを使って業務効率化につなげられるはずと直感しました。研究会の主査がとても楽しそうに、熱意を持ってデータ分析について話すのを見て、「あの人が見ている世界を自分も理解してみたい」と強く思いました。その人は、いまでも私の心の師匠です。

AIに関心を持ち始めたのは小学生の頃。家にパソコンがあり幼い頃からプログラミングに親しんでいました。実は、子ども心に当時の技術には大きく失望していました。「AI搭載なのに、どうしてこんなクオリティの低い挙動しかしないの?」と。それから数十年。AI技術が飛躍的に進歩したいまなら、きっとすごいものが作れるだろうと期待をふくらませています。

新規事業開発だけでなく既存事業の効率化もデータサイエンティストの仕事

私は現在、部品開発部のデジタル・ソリューション開発室で、主に自動車部品にかかわるコンピューターシミュレーションやデータ分析の業務を担当しています。

大学では金属工学を専攻。工学部のなかでも一番苦手な分野を嫌でも勉強できるようにと、あえてこの専攻を選びました。卒業後は出身の名古屋へUターンし、専門知識が活かせる愛知製鋼へ就職。入社直後は技術開発部でチタン合金の圧延技術の開発をしていましたが、そのあと、もともと好きだったコンピューター系のチームに配属を希望して現在に至ります。

新しい技術の開発はもちろんですが、既存事業の業務改善もデータ分析チームの重要な職責です。時代の波を受けて、求められる素材・部品のニーズは変化しています。しかし、だからこそAI技術を利活用して業務を効率化することが求められているのです。

たとえば、当社には大量の製造設備がありますが、センサーを付けてデータを取れれば人間がいちいち見に行く必要がありません。開発者の頭の中にあるアイデアも、AIがあればよりスピーディに形にできるでしょう。AIが人間の仕事を奪うと言われていますが、私はそうは思いません。人を助け、楽にするのがAIの役割だと思っています。

データサイエンティストは見えないところで活躍する究極の縁の下の力持ち

私たちの仕事は、自動車の部品そのものを作る仕事ではありません。部品ができるまでの過程をAIでサポートする、いわば縁の下の力持ち的な仕事です。

でも、この会社ならではの面白いデータを扱えるので、データサイエンティストにとっては非常に刺激的な職場だと思いますね。たとえば、鋼を溶かすような温度環境で集められた画像認識のデータは、世界でもなかなか見ることができない貴重なものです。ほかにも、超音波のデータ分析など日常的には経験できない特殊なデータを扱える面白さがあります。

自分が作ったAIを現場の設備と連動させ、自ら制作したプログラムによって動かした瞬間の感動はいまでも忘れられません。現場の要望に応えるものをうまく作れないときはとても悔しいですが、それも「もっとがんばるぞ!」というモチベーションになっています。

若手のメンバーが多いチームですが、「誰かの役に立ちたい。世の中の役に立ちたい」という思いは同じ。同じ志を持つ者同士、互いに連携してチームワークを大切にしながら日々切磋琢磨しています。

当社はほかの社員のデータ分析に対する認知度も高く、「自分たちのために役立つ何かを作ってくれるはず」と期待してくれているのも嬉しく思います。

やってみたいという気持ちが大事。趣味が仕事に、仕事が趣味に活きる面白さ

私は、どちらかというと仕事より趣味に生きる人間です(笑)が、期せずして、趣味が仕事に役立っています。

たとえば、中学生からの趣味でDTM(デスクトップミュージック)を作曲しているのですが、音楽の経験はシミュレーション業務で行っていた流体解析や、振動から設備の故障を検知するような信号処理系のデータ解析に役立っています。

もう1つの趣味である写真も、フォトレタッチソフトによる現像・加工を経験することで、画像系の処理やセンサーの仕組みを学び、それがいま画像認識の仕事にとても役立っています。いま取り組んでいるAIについても、何らかのかたちで趣味に活かしたいですね。いずれ、歌声生成の開発にも挑戦してみたいなと思っています。

情報系の領域採用をスタート、若い力とともにAIの未来を創り上げる

いまのチームメンバーは入社後にAIを勉強しはじめた社員がほとんどですが、2022年度からは情報系の領域採用を行う予定です。入社後は情報領域の知識を活かせるITマネジメント部、未来創生開発部、部品開発部、設備技術部のいずれかに配属されます。また、そうした関連部署が入社後のIT人材の育成・ローテーション方法を議論し、全社としてのIT領域強化を図っています。

データ分析の基礎ができている学生に入ってもらえるのは、とても頼もしいですね。即戦力になって、ぜひバリバリ活躍してほしいと思います。一方で、当社のような製造系の会社では覚えなければならない実務もたくさんあるので、データ分析と同じように熱意を持って習得してもらえたらと思います。

この会社で活躍できる人材は、“知的好奇心を持っている人”。これに尽きます!ものづくりに関心があって、自分がやりたいデータ分析のために必要なことは何でも身につけてやるぞ!というくらいのバイタリティがある人なら、大きく成長できる環境があると思います。

経営トップがデータ活用に積極的で「何でもやってみなさい」と若い人の背中をどんどん押してくれますし、大きなプロジェクトも職階に関係なくどんどん任せます。勉強することも多いですが、やりがいも大きいはずです。

ユニークな教育制度としては、国内留学制度というものがあります。実は、私もいま学生で、国立大学法人 総合研究大学院大学の博士課程で深層生成モデルを用いた異常検知技術の研究を行っています。学費や出張費等はすべて会社支給で実務とのバランスも考慮してくれるので、とても勉強しやすいです。

入社する際に大事なのは能力ではなく“熱意”です。「こんなことをやってみたい!」という熱い思いのある方は、ぜひ一緒にAIの未来を創りあげていきましょう!

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