第二回あいおいニッセイ同和損害保険株式会社主催コンペティション 最優秀賞 中村優太さん – 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 修士1年

保険業界におけるデジタル活用の最先端を走るあいおいニッセイ同和損保。
同社が主催する「自動車の走行データ(クローズドデータ)を用いた事故予測の機械学習モデル開発コンペティション」が2021年9月14日-15日、オンライン開催された。

本イベントは、同社の自動車事故解析サービスでも用いられている実データに触れながら、事故が発生した場合の保険金ランクを予測し、その精度を競う個人戦のオンラインコンペティションだ。金融の領域でのデータドリブンな業務改善、業務提案に興味がある学生、OSSでのモデル開発から次の一歩を踏み出せない、機械学習スキルの腕試しをしてみたい学生らが競い合った。

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社は、自動運転の進化、浸透によって激変する損害保険領域において、先進的な技術力とデータでリードする企業だ。

テレマティクス技術を活用した自動車保険を2004年から開発するなど、業界におけるデジタル活用の最先端を走り、英国最大手のテレマティクス自動車保険企業の買収、米国での保険サービス会社の設立(トヨタとの共同設立)など、グローバルな動きも注目されている。

当日は、同社のデータサイエンティスト3名が学生1人1人と対話型のコミュニケーションによるメンタリングを実施するなど、フォローを行った。

学生たちは、自動車の走行データを用いた保険金予測の機械学習モデル開発を通して、同社の事業やデータ活用事例等について知り、自分自身の活躍可能性を考える2日間となった。

最優秀賞受賞者:
東京大学大学院修士1年 中村優太さん
大学院では理学系研究科で物理学を専攻。樺島研究室に所属。 

「ハッカソンの印象は?」「好成績につながったポイントとは?」お話を伺った。

―現在の研究内容や学外での活動について教えてください

大学院では情報統計力学の研究をしています。「情報統計力学の研究」とは、統計力学という物理の分野での手法を統計学や最適化問題に応用する研究です。

所属する樺島研究室では、機械学習がどういう仕組みで動くかについての研究も行われ、私自身もそれに近いものを研究しています。

―コンペティションに参加してみていかがでしたか?

競い合う仲間の顔が見える形で、さらにメンターの方にもアドバイスをいただける非常に楽しいコンペティションでした。

コロナ禍で人との交流が減る中、(オンライン上ではありますが)久々に人と交流しながら競うという貴重な体験ができました。

今回は個人戦でしたが、参加者がオンライン上の同じルームで相談し合える環境で、チーム戦のような体験もできました。高校生の頃、友人と競い合って受験勉強をしていた頃を思い出しました。

まだ私自身、機械学習に不慣れなところがあります。今回のような困ったときに助けてくれるひとや新しいアイデアをくれるひとがいる環境のほうが、良い成績を出すことができ、楽しさも大きいということがわかりました。

―好成績を修めましたがどのような工夫をしましたか?

まずは基本的な機械学習を実践する「王道の手続き」をいち早く作ることができたのが好成績を修めることができた一因だと見ています。

それに加えて、データを深く観察したことで新しい特徴量を上手く発見できたことが大きいです。

私は統計学に近い分野で研究をしており、確率の分布から特徴を読み取ることに慣れています。今回はグラフの形の読み取りがポイントだったので、普段の研究やこれまでの知見を活かして、好成績を修めることができたと思います。

―苦労した点や、もっと伸ばせたと思うところはありますか? 

2日間という短い時間だったので、試したいアイデアがたくさんある中で、簡単なものから試していこうとすると、時間切れになってしまいました。もっと複雑なデータ解析も試すことができれば、さらにスコアは伸びたかもしれません。

1日目の夜に、浮かんだアイデアが10個くらいありました。しかし、現在の私の実力では1つ試すのに20~30分くらいかかり、10個全部試すには時間が足りません。

実際に試すことができたのは、3つくらいです。1つ1つ試していくと、どんどんスコアが上がっていったので「もっとやりたかった」というのが本音です。

10個のアイデアのうち、簡単且つ効きそうなものから試していったので、最初の1つ目でスコアがぐんと上がり、そこからは緩やかに上がっていきました。(最初に選んだアイデアが)「簡単且つ効果が高そう」という予測は当たっていました。

今回のコンペティションでは「クルマがどの向きにどのくらいのスピードで走行していたかを見ながら、そこで起きた事故にどのくらいの保険金がおりるか」を予測するものでした。

つまり、クルマがどういう動きをしていたかによって、評価が分かれます。実際の映像を見ずとも、左右や上下方向のクルマの動きを見ることによって、「ぶつかる前に急ブレーキをかけた」「ブレーキをかけずにぶつかった」など、クルマの動きと予測が関係しているのでは?という着想を得ていました。このアイデアは一番効果が高そうだと思ったものの、「クルマの動きと挙動の分類」は一番難しそうな内容でもあったため、試すことができませんでした。

―主催企業やメンターへの印象について、率直な感想を教えてください

参加する前は「保険会社は文系の方が多い」というイメージを持っていました。

本コンペティションに参加して、これまでの保険会社に持っていた印象とは大きく異なっていることがわかりました。

(2日目の終盤に設けられた)質問専用ルームでは、4~5人のメンターの方に丁寧に教えていただきました。プログラムのバグがあり、提出結果が悪くなってしまったことを説明すると、メンターの方が付きっ切りで教えてくださり、おかげで解決することができました。

今回のメンターの方は、どんな簡単な質問にも応えてくれる気さくで穏やかな方が多くて、心地よかったです。

メンターの方からのアドバイスを総合的に振り返ってみると、インパクトとして大きかったのは、(先述した)小さなバグをとることで結果がぐんと伸びたことです。

内容として一番印象に残っているのは、充分に利用できていないデータがあり、そこをもっと見るように教えていただいたことです。当日、とても焦っていたこともあり「とにかく早く良い結果を出さないと」という思いで、パラメーターを触っていました。そんな時、メンターの方から「もっとデータをよく見るとぐんと伸びる機会がある」とアドバイスをいただきました。これは、私自身にはない視点であり、経験者ならではの肌感を学ぶことができた貴重な体験でした。

―今後、どのようなチャレンジをしていきたいですか?

次にチャレンジしてみたいのは、株価の予測です。

金融系に興味があり、今回のコンペティションへの参加は、もともとアクチュアリーのインターンに興味があり、サイト訪問したところ、募集を見つけたのがきっかけです。

物理学科では、自分自身の好奇心を大切にして研究を進める方もいますが、私自身は「人の役に立つ研究がしたい」という思いを強く持っています。研究分野は基礎研究ですが、人の役に立つことに挑戦し続けたいと思っています。

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