理系の就活先に「外資コンサル」はありか、なしか? 研究内容を活かせない業界に敢えて飛び込んだ京大生の頭の中
理系学生の就職先として、どんな会社が思い浮かぶだろうか。食品、メーカー、化学系の企業は依然として人気が高い。修士、博士まで取得した学生が、研究経験を活かせる企業を選ぶのは、ごく自然なことかもしれない。
一方で最近では、「理系学生が経験を活かし活躍できる職場」として、外資系のコンサルティング会社が注目されている。ドイツに本拠地を置き、ヨーロッパ最大の戦略コンサル企業として知られるローランド・ベルガーもその一つだ。
コンサルタントという仕事に、理系はどんなアドバンテージを持つのか、変動する時代で求められるのはどんな資質なのか。京都大学大学院農学研究科を卒業後、2008年に新卒入社して今年で12年目、プリンシパルとして活躍する徳本直紀氏に話を伺った。
バイオベンチャーの起業を夢見た学生時代から戦略コンサルタントへ
大学院では、バイオテクノロジーを専攻していました。折しも、バイオベンチャーが大きな注目を集めていた頃で、私も自分の研究テーマで起業してみたいと漠然とした夢を抱いていました。とはいえ、研究を事業化するには市場価値がなくてはなりません。当時の自分は自身の研究テーマをビジネスとして成立させるのは難しいと感じていました。
それは私に限ったことではなく、周りにいた多くの優秀な研究者たちも、ビジネスに関する知識が不足しているゆえに、研究内容をうまく役立てることができずにいました。その時に「事業化をスタートしたものの、ビジネスが分からずに困っている人をサポートしたい」と考え、はじめてコンサルタントという職業を知りました。外資系会社を選んだのは、グローバルな環境に惹かれたからです。メーカーに就職する仲間が多いなか、異色の選択だったと思います。
思考力が必要なコンサルタントこそ理系学生が実力を発揮できる職業
コンサルタントと言うと文系のイメージがあるかもしれませんが、実は理系が非常に活躍できる世界です。実際に、ローランド・ベルガーでは文理の比率が半々くらい。これは、私が入社した12年前から同じです。理系がコンサルタントに向いているのは、情報技術が発達した現代だからという理由もありますが、それだけではありません。そもそも私は、この仕事こそ理系に向いている職種だと考えています。なぜなら、コンサルタントに必要不可欠な「思考力」を持っているからです。コンサルタントに必要な資質は、3つあります。まず、コミュニケーション能力と知識。そして思考力です。
コンサルティングは、情報を短時間で整理して構造化し、課題の本質を見抜いた上で、ビジネスとしての最終的なアウトカムである数字、業績と紐づけなければなりません。このプロセスは、理系の研究で行う仮説→実験・検証→数値を取る、という流れとまったく同じです。この流れのなかで培われた論理的思考力が、コンサルタントになったとき大きな強みとして発揮されるのです。
自由に自分の可能性を広げていけるのがローランド・ベルガーの魅力
私がローランド・ベルガーを選んだのは、社風と人に惹かれたからです。当時は社員もまだ5、60人規模で少なく、ベンチャーのような若々しさのある会社でした。毎年2桁成長していて勢いがあり、説明会で会った社員もエネルギッシュ。「とにかく自由なのがうちの良さ。自分のやりたいことを実現できる自由な会社なんだ」と言われたのが印象的でした。この印象はいまでもまったく変わっていません。弊社のDNAみたいなものだと思います。
求められる結果は同じでも、そこにどうアプローチするかは自由。チームの一員として動くので最低限のルールはありますが、「これをやりたい」「ここまでやりたい」と自分の裁量を無限に広げられます。
この社風は、若手の業務範囲に如実に出ているのではないでしょうか。まず、チームは業界ごとの縦割りではありません。自動車のプロジェクトチームにいた人が、次はヘルスケアのチームに入っても全然構いません。担当業務にも制限がなく、入社直後からお客様と直接議論する場を与えて、お客様に育ててもらうという風土があります。この業務にはこの人が適任だと思えば、たとえ新入社員であっても任せるというやり方です。実際に私も入社4カ月の頃、クライアント企業の社長が同席する報告会で、「この事業は撤退すべき」というプレゼンをしたことがありました。いま思うと、重大なプレゼンを私のような新米によく任せてくれたなと感謝しています。
このように個人に裁量を与えてどんどん成功体験を積ませるので、若手の成長が早いのが弊社の特徴です。お客様から直接「君がいたから、このプロジェクトが成立したよ」という声をいただけたときは、大きなやりがいを感じますね。
一人ひとりの個性を生かしたチームを作るため新たな評価制度を導入
2015年からは「 日本発のイノベーションカンパニーを作っていこう」を目標に掲げ、さまざま改革を行っています。2019年からは、個人の専門性やスキルを細分化して評価するという取り組みが始まりました。どんな業界に知見が高くどんな業務が得意なのかなど、約100の項目を設けてポートフォリオ化したものを常時社員に公開し、アサインメントニーズに応じた適材適所の最適なチームを作ることに役立てています。ポートフォリオは自己申告の5段階評価制。ちなみに私は、業界はヘルスケア、職能は経営戦略とビジネスデューディリジェンスなどを「5」と自己評価しています。
この取り組みの背景には、全員の顔と名前がわかる100人規模の会社だからこそ、一人ひとりの社員の能力や個性を生かし切りたいという意識があります。短い労働時間で高いバリューを出すためには、全員が効率よく働くことと、個人が通常以上のパフォーマンスを出せるような適材適所のチームを作ることが必要です。社員のいいところをたくさん引き出して、どんな人でも活躍できる会社にしていきたいというのが弊社の願いなのです。
ポートフォリオのおかげで誰もがそれぞれに強みを持っているのだとわかり、自然とお互いを認め合うようになりました。社員間のコミュニケーションがとても良く派閥ができないのは、そのせいなのかもしれません。
これからのコンサルタントに求められるのは“つなぐ”ネットワーク力
今後10年間を見据えたとき、コンサルタントとしてこれまで以上に重要になるのはコミュニケーション能力です。コンサルタントには、信頼関係のもとお客様のニーズを引き出し、それに対して適切なカードを切りながら、正しい方向に導くコミュニケーション能力が求められます。加えて、今後は人と人とをつなぐ力、「ネットワーク力」が必要になるでしょう。
現代は、他社との協業や業務提携を視野に入れて、0から1の新しいビジネスを作っていく時代。こうしたクライアントニーズの変化を受けて、コンサルティングもお客様の実行力を担保するような内容が求められるようになってきました。
たとえば近年では、大企業の新規事業案件が増えています。既存の技術や資産をベースに新しいビジネスモデルを考えていくわけですが、弊社では協業会社のデータベースを利用して最新の論文や研究をリサーチし、最適な協業企業を選んで具体的にレコメンドします。また、プロトタイプを作れる企業を見つけてテストマーケティングを実施し、新規事業の実行性を納得していただくということも行っています。
企業をサイエンスするコンサルタントに臆せずチャレンジしてほしい
コンサルタントは机の前でただ考えるだけの人ではありません。企業経営に入り込んで組織を動かしていく、熱量のいる仕事です。コンサルタントのやりがいは、クライアント企業の事業を通じて、社会に大きなインパクトを残せる面白さと、お客様から感謝の言葉を直接もらえること。世の中に対して高い問題意識を持ち、日本の企業を元気にしていきたいという熱い思いを持つ方に、ぜひ入社していただきたいなと思います。
学生のうちにやっておくとよいのは、まず英語でのコミュニケーション力を磨いておくこと。それから、思考力を高めること。本などで知識を詰め込む勉強は必要ありません。それよりも大事なのは、日々「なぜ?」を考えることです。たとえば道路が渋滞していたら、「なぜ、ここは渋滞しているのだろう?もし、この信号を外したらどうなるだろう?」とイマジネーションを働かせてみてください。多面的に物事を見る力が養われます。
入社後は、長期的な視野を持って仕事に取り組んでください。成長カーブは人によって異なりますから、短期的な評価に一喜一憂しないことです。どんなコンサルタントになりたいかという初心を忘れず、お客様に対して結果を出していくことを日々大切にしてほしいと思います。
私も研究職からコンサルティング会社に飛び込んだときは、不安がたくさんありましたが、そこは研究者魂で乗り越えてきました。はじめから何でも完璧にできる人なんて誰もいません。臆せず、チャレンジしてください。
コンサルタントは、企業をサイエンスする仕事。理系で、かつコミュニケーション能力が高い人は、この仕事にフィットすると思います。研究室を飛び出して、ビジネスというより広い世界で実験してみませんか。