令和の時代のキャリア戦略、学生にとっていま留学がアツい理由を文部科学省に聞いてみた

 インターネットの進化によって、家にいながら多くの情報にアクセスできるようになった。大学の授業もオンライン化され、日本にいながらアメリカの大学の単位まで取れる時代だ。

 そんな時代に、わざわざ留学をする意味はあるのだろうか?語学力だって、Skype英会話などで安価に学べる時代である。それよりも日本の大学で研究に打ち込んだり、インターンシップに挑戦してみる方がプラスなのではないか…。そう考えるのはごく当然のことのように思える。

 一方で、民間企業の寄附金によって返済不要の奨学金制度で留学の支援をしているプログラムがある。「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(以下、トビタテ)」だ。この奨学金は全て企業からの寄附金で成り立っている。それはつまり「企業は、留学を経験した学生が、自社のため、ひいては日本経済のためになる」、そう信じているということではないだろうか。

 令和になったいまも、「留学する」という選択肢は本当にありなのだろうか。文部科学省でトビタテの広報を担当する西川朋子さんに話を聞いてみた。

民間企業から文科省へとキャリアチェンジ、トビタテの広報を担当する西川さん

超多彩な留学、国も自由!目的も自由!自分でプロデュース

小林:西川さん、今日は宜しくお願いします。まずは、トビタテという奨学金制度についてざっくり教えてください。

西川:トビタテは、運営は文部科学省と独立行政法人日本学生支援機構が行っていますが、奨学金は全額、民間企業からの支援、寄附金によって成り立っています。文部科学省が留学を支援していると、成績優秀じゃなきゃ、決まり切った内容になっているんじゃないかと思われるかもしれませんが、実態は大きく異なります。まず、行き先となる国は自由に選べます。

小林:え、自由?選択式じゃなくて、自由なんですか?

西川:はい、自由です。もちろん渡航制限があるような国にはいけませんが、学生が自分で行きたい国を選びます。それは、そもそもの留学の目的も学生自身に決めてもらっているから、その目的を叶えるために適切な国も、自分で選んでもらおう、という考えから来ています。

小林:留学というと、語学留学のように目的が限定的だったり、この目的を達成したいならこの大学、という指定があるイメージでした。

西川:あ、留学先は別に大学じゃなくても構いません。

小林:な、なにがですか?

西川:受け入れ先が法人であれば、NPOでもいいし、民間企業でも構いません。それがやりたいことに繋がっていて、学生が学べる、成長できると考えるのであれば、そういった枠は必要ないと考えています。

小林:学び方も自分でプランニング出来るのですね。例えばどんな留学テーマやプランがあるのでしょう?

西川:「人工知能」というテーマの留学の事例を挙げると、3週間シリコンバレーの企業で学んだ高校生や、1年間ジョンズホプキンス大学大学院というアメリカトップレベルの大学で画像認識技術を学んだ大学生、同じく1年間スイス連邦工科大学で深層学習の研究を行なった大学生など、様々なパターンがあります。他にもアフリカに農業を学びにいったり、ミャンマーのNPOで活動したりなど、非常に幅広いケースがありました。

小林:…衝撃ですね。正直「国なのにすごい」という印象が…。むしろ自分の方が頭硬かったなぁと打ちのめされています。

トビタテでタンザニアにインターンに行った学生さん(左から2人目)と現地の中学校の先生たち

留学じゃないと学べないことってなんだろう、という問い

西川:留学先ではもちろん研究を始め様々な学びの場がありますが、私個人としては「生き抜く力」みたいな根っこの強さを身につけるのに留学が最適だなと思ってます。さらにグローバル化していく社会では、多様性のある環境からイノベーションを起こしたり、アウェイな環境でも自分の存在感を示せる能力が必要になっていきます。この能力は、動画やテキストコンテンツから学ぶのは困難で、家族も友人もいない、言葉も不自由する環境に飛び込む、そこで試行錯誤する、という経験から培われるものだと。

小林:なるほど。でも、日本でも社会全体が徐々に多様性を持つようになったり、流動性が高まったりしてきて、似たような学びができるということはありませんか?

西川:そうですね、確かに日本にいても多様な価値観を学ぶ機会は増えているかもしれませんが、アウェイ環境で学んだほうがインパクトは大きいと思います。実は、トビタテというプロジェクトは、下村博文元文部科学大臣と、世界経済フォーラム「ダボス会議」に招待されたヤング・グローバル・リーダーズ(YGL)と呼ばれるメンバーの危機感から始まったのです。彼らは、初めてダボス会議で同世代、だいたい30代くらいのリーダーと対話した時に、衝撃を受けたそうです。

小林:衝撃を受けた?

西川:YGLに選出されるくらいですから、日本で実績を出した優秀なメンバーで、自信もあったはずなんですよ。

でも、海外のYGLの語学力はもちろん、教養、世界情勢への知識などあらゆる面で圧倒されたそうです。日本ではアグレッシブに発言をするほうなのに、聞き上手ですね、と言われたり・・(笑)帰国後は次の会議に向けて皆さん、かなり準備、勉強を重ねられたとか。その経験から、少しでも早い時期に、若者に世界のハイレベルな同世代に触れる経験をさせてあげたいという危機感を持っていて、それが若者の留学応援キャンペーン、トビタテを生んだ原動力なのです。

小林: 確かに、その「空気感」だったり、実際の現場のレベル感みたいなものは、飛び込んでみて始めてわかるものかもしれませんね。

トビタテで自分に合った留学をする理系学生さん

タフさが求められる時代に、留学でまず一歩を踏み出してみる

西川:トビタテは民間企業からのご支援、ご寄附で成立しているわけですが、それは民間企業が「グローバル対応できるタフな人材を求めている」ということの裏返しでもあると思うんです。現に、多くの外国人学生が日本の企業に積極採用されています。私たちはこのプロジェクトを通じて、10年後、30年後に日本を支える、変革するような骨太な人材が出てきてくれたらいいなと思っています。

小林:企業だと投資に対してどうしても短期的なリターンが求められますが、その視点の長さは「国だから」の良さかもしれませんね。また、教育というのは本質的にそういった点があるような気もします。

西川:そうですね。この留学支援プログラムは、支援したからといって何か見返りが求められることは一切ありません。また、選考にあたっても学歴や成績は一切考慮されない、という特徴もあります。「やりたいことがあって、それを実現するために挑戦してみたい」という気持ちを大事にしています。

小林:英語力も求められないということですか?意外です

西川:トビタテの選考では、英語力や学校の成績ではなく、本人のやる気、独自性、好奇心を重視します。何をしたいのか、どんな人になりたいのか、そのために留学をどう活かして、留学を通じてどんな社会貢献をしたいのか。その熱意を見せてくださいとお願いしています。

こう言うと「私にはそこまでやりたいことがない」と留学自体を尻込みしてしまう人がいるかもしれません。でも、それはそれでいいのです。将来的に変わるかもしれなくてよいので、今の自分なりにベストな「仮説」のテーマや目標をたてて、留学プランを作ってみればいいと思います。何をやりたいかわからないからこそ、一人海外に身を置いて、本当にやりたいことを模索する経験を絶極的に積んでほしいと思っています。難しいことは考えずに「海外に行きたい!」という思いを大切に、どんどん海外へ飛び出してほしいと思っています。

学生時代は、留学可能な数少ないチャンス!あなたのチャレンジを全力応援

小林:海外への憧れはあるものの、今いる環境から飛び出ることに漠然とした不安を感じる人も多いと思います。どうすると一歩踏み出せるでしょうか?

西川:海外へ自由に行けるタイミングというのは、人生においてそう多くはありません。一度社会に出てしまうと、行きたくても行けない人がほとんどでしょう。時間的に余裕があり、奨学金など費用面のサポートも厚い学生のうちに、ぜひ一度海外を見てきてほしいというのが私の願いです。

小林:トビタテならではの良さはありますか?

西川:トビタテプロジェクトの目的に、留学生、学校、企業などと「グローバル人材育成コミュティ」を形成することがあります。

この6年間で8,000人以上の留学生を送り出していますが、これだけ多様性があって大きなポテンシャルを秘めたコミュニティは他にはないと思っています。他の省庁や企業からもコラボしたいという引き合いが多く、アイデアソンのお誘いなども受けています。また、学生が主体的に立ち上げるプロジェクトも増えています。その1つの例として、2月16日(日)に40組の留学経験者による「トビタテ文化祭 by 世界をみてきた学生たち」が開催されました。日本のグローバルな未来を中心的に担うコミュニティとして認知される礎を築けたことが、6年間の大きな成果だと思います。彼らの今後の活躍が本当に楽しみです。

そして今、トビタテ奨学金の他にも、高校生、大学生向けに様々な奨学金や支援プログラムが増えています。どんな手段を使ってもよいので、ぜひ学生のうちに、海外で学ぶチャンスを自分に作ってあげてください。世界は想像しているよりも面白く、多様性に富み、行かなくてはわからないことがたくさんあります。素晴らしい出会いや発見を探しに、思い切って世界に飛び出してみませんか。皆さんの留学への挑戦を応援しています。

トビタテ9期生の壮行会の様子

本取材は2020年2月6日に行なったものです。

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