世界トップブランドが推進してきたDX、その未来を創る人材に期待されることを探る

シニア・ヴァイス・プレジデント ロレアル リュクス事業部本部長フィリップ・アルシャンボー

世界中のあらゆる企業において、生産性向上は避けて通れないテーマだ。特に人口減少が顕著な日本では、より一層重要度が高いと言えるだろう。その実現手段として注目されているのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。業務や顧客体験をデジタル化することで、生産性を上げる、新しい提供価値を生み出すといった効果が期待されており、現在多くの企業でその活用、実現が模索されている。

DXにおいて、過去10年に渡って業界をけん引してきた会社がある。日本ロレアル株式会社だ。ロレアルは、競合他社や取引企業がEコマースにそこまで積極的でなかった時代から、ブランドのオフィシャルオンライン販売サイトを開設、社内での学びの規模を拡大し、化粧品業界のDXをリードしてきた。

そのロレアルのロレアル リュクス事業本部は、2025年に向けて「ビューティテックロードマップ」を策定。さらに先を見据えて進もうとしている。そんなロレアル リュクス事業部、そしてロレアルが描く未来のDX、そしてそれを創り出す人材に何を期待しているのか。ロレアルのシニア・ヴァイス・プレジデント・ロレアル リュクス事業本部長であるフィリップ・アルシャンボー氏に話を伺った。

化粧品業界DX、これまでと、これから

2017年7月 軽井沢での社内オフサイトでのプレゼン風景

(以下、アルシャンボー氏の語り)

10年ほど前、業界で先駆けて本格的なEコマース展開に成功したロレアルですが、DXのあり方は日進月歩で変化しており、我々はさらなる変化、進化が求められていると感じています。例えばここ数年では、UX(User Experience、顧客体験)におけるオンラインとオフラインの境界がなくなりつつあります。われわれはそういった顧客の進化にいち早く着目し、現在ではオンラインでも充実したブランド体験を提供できるようになっています。商品の色味を試せるバーチャルトライオンシステムや、eBA(eビューティーアドバイザー。オンライン上でカウンセリングサービスを行う美容部員)を導入したことにより、化粧品のトライアルや美容部員への相談など、実際に店舗に行かなければ体験できなかったことが、デジタルでも体験できるようになったのです。

もともと2025年に向けて「ビューティテックロードマップ」を作成しており、その取り組みの1つとしてeBAのアイデアを持っていたのですが、今回の新型コロナウイルス感染拡大の状況下で一気に実現が加速しました。ブランドごとのストーリーやブランド価値の多様性を尊重しているロレアルだからこその特長としては、ブランドごとに「ビューティテックロードマップ」の施策が少しずつ異なることです。たとえば、メイクアップアーティストのストーリーが重要なシュウ ウエムラでは先日、メイクアップアーティストを招いてのライブストリームイベントを行いました。ひとつのやり方を単純に横展開するのではなく、ブランドや顧客ターゲットに合った施策を、創造性や機敏性とともに、自らオーナーシップを持って実現していくというロレアルのDNAを社員全員が備えていると感じました。

ロレアル リュクス事業本部が目指す「さらなる顧客体験の創造」

2017年7月 軽井沢での社内オフサイトでのプレゼン風景

Eコマースの充実とともに、さらなる顧客体験の創造のために力を入れているのがO2O(Online to Offline)戦略です。オンライン・オフラインの両方で消費行動を取っている顧客の行動データを蓄積・分析し、オンライン・オフラインの境界線なく、行き来する「シームレス」なO2Oの構築を目指しています。言葉にするのは簡単ですが、実際の事業のなかでそれを実現するには多くの課題があり、顧客満足度とロイヤリティ向上を目指したチャレンジ精神が必要です。

O2O戦略には、顧客だけでなく売り手への配慮も必要です。たとえば、店舗で接客したお客様がオンラインで商品を購入した場合は、担当した美容部員の売り上げとしてきちんと計上されるようなシステムを構築しています。真に素晴らしい顧客体験を作り上げるのは、現場スタッフを含むすべての要素を加味した企画であるというのが、私たちの考えです。これを表すように、今までの「オンライン」「オフライン」を別々で考えるのではなく、掛け合わせた「オムニチャネル」、「オムニ美容部員」という言葉も社内に生まれました。

つまり、O2O戦略にはデータから読み取れる課題解決の思考力と現場や組織を理解したうえでの追求する力、ロレアルのカルチャーである「右脳と左脳のバランス(Poet and Peasant、詩人のように感性豊かに、農夫のように実直に)」が重要なのです。さらに、日本人は品質や細かな違いに敏感であり、洗練性も高いので、細部にこだわりを持ちながら仕事に取り組むよう心がけています。

業界を牽引するDXを支える「人の多様性」を実現するもの

2020年1月 仙台でのオフサイト集合写真

私はロレアル以外にも、ラグジュアリーブランドで働いた経験もあるのですが、他社と比べてもロレアルは経営戦略から現場の美容部員の気持ちまで、お客様に価値を届けるために、必要なすべてのステージに対して社員がしっかりと取り組み、課題解決を行っていると感じます。そのため、ロレアルにはさまざまな経歴を持ったメンバーが、それぞれの専門性を発揮した職種(メティエ)で活躍しており、多様性に富んだ「人」がいます。

職種によっては専門的経歴が求められることはありますが、現在学問に励んでいる学生目線で見ても、活躍できる人物に、理系・文系の差が決定的となることはない、と考えます。最も重要なのは、先ほど述べたデータから読み取れる課題解決の思考力と現場や組織を理解したうえでの追求する力、すなわち左脳的論理的思考と右脳的感性の双方の発揮なのです。

キャリアパスも自身で描けるのがロレアルの良さです。数字に強い人はファイナンス職やサプライチェーン職にフィットしやすいかもしれませんが、入社後に強みを軸にしつつ、創造性や情緒性を磨いていき、異なる分野のプロジェクトに携わったり、キャリアを目指すことも可能です。目の前の仕事に励みながら常に進化し、次の挑戦や目標を見つけていくというのがロレアル流。現に、ランコムのファイナンス職から、シュウ ウエムラのEコマース事業に加わり、元々の強みであった論理的思考をベースに、創造性を磨きながら活躍している人材もいます。

ロレアルの特性でもある、ブランドの多様性も人材の活躍の場を広げています。より論理的な思考が求められるスキンケアブランドから、トレンドや感性といった右脳寄りのセンスが求められるメイクアップブランド、フレグランスブランドまであり、同社内で様々な機会があるのです。そういったキャリアの幅の可能性も私が化粧品業界、そしてロレアルに惹かれる最大の理由でもあります。

ロレアルの人事の最大の特徴は、「Person First (人第一主義)」であること。組織を考える際も、まずは人をベースに考え、欠員を補うためだけの配置はしません。定期的に開催される正式な評価面談に加え日頃からのコミュニケーションで一人ひとりに将来のキャリア展望を聞きながら、ポテンシャルを見出して複数のキャリアパスを協議し、中長期的な視野で配属を考えます。

世界的ブランドをDXで飛躍させる人材に求めるもの

2020年2月 仙台での社内オフサイトでのプレゼン風景

私がこれから入社する学生に求めることは4点あります。1つ目はPassion(情熱)。トレンドの移り変わりが早く、仕事のやり方も常に進化することからも、ガイドラインやマニュアルが少ない会社ですから、情熱を持って自ら働きかける力が重要です。

2つ目はEntrepreneurship(起業家精神)。右脳と左脳、論理的な思考と感性をバランスよく保ちつつ、主体的に行動する人材を希望します。

3つ目はAgility(機敏性)。情報の量やスピードが増えた現在では、起きたことに受動的に反応するReactではなく、常に状況を先読みしながら能動的に行動していくことが求められます。

4つ目は Collaboration(協働)。一人のスター社員が大活躍する時代は終わりました。いまはチームで意見交換し、協議しながら課題を解決していく時代ですから、協働精神がある人が必要です。他の人と協働しつつ、個人のドライブ力も発揮できる人が活躍できると思います。

ロレアルではDiversity(多様性)を尊重した組織づくりをしており、業界グローバルNO.1でありながら社員それぞれが起業家精神を持ちつつ、自由な環境で成長しています。私たちのビジョンに共感してくださる方は、ぜひエントリーしてください。

編集後記

当日の取材は、オンライン上で実施した

ロレアルは、フランスに本部を置く、売上高3兆円を越す世界最大の化粧品会社だ。そのため、やはり活躍しているのは女性が多く、Tech系の人材ニーズはあまりないのではないか。そんなイメージがあった。ところが、ロレアルではサプライチェーン、ファイナンス、ITと幅広い人々が活躍し、求められていた。さらには「Beauty Tech Company」を標榜し、DXを通じて新たな顧客価値を生み出そうと挑戦している。「美容」というキーワードに無縁であっても、世界に影響を与える仕事ができるフィールドが充実している。そんな懐の深さを感じる取材だった。

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