デジタルで希薄になった絆をデジタルで呼び覚ます、家族を繋ぐのはコミュニケーションロボットだった

コミュニケーションは取れているだろうか。クライアントや社内といったビジネスでのコミュニケーションの話ではなく、家族、友人、近所の人たちとの会話というものはこの1週間であなたはどの程度あっただろうか。

現代人は、デジタルの発達や社会構造の変化などを背景に、身近な人たちとのコミュニケーションは希薄になっており、このコミュニケーション不足は、さまざまな問題を引き起こす要因になっていると言われている。

小学校未就学児を持つ家庭で、共働きをする世帯数が増加しているが、父親が育児をする時間は平均で1日40分ほどしかなく、育児以外に家事をする時間も1時間程度というデータが内閣府より発表されている。これは、欧米諸国に比べて半分以下だという。大切な家族との時間はそのまま家族の絆に直結する。

また、高齢者を見てみると、65歳以上で1人暮らしをする高齢者は増加しており、1980年には男性約19万人、女性約69万人であったが、2015年には男性約192万人、女性約400万人になり、2035年には男性約260万人、女性約501万人まで増えると予想されている。これは二世代で同居する人が少なくなり、1人で暮らす高齢者が増えるためだ。また東京大学の研究チームによれば、1人暮らしの場合、女性の孤食はうつ病発症のリスクが1.4倍、男性は2.7倍にもなるという発表をしている。

これらの課題に対し、ユカイ工学株式会社CEOの青木俊介氏は、「課題解決のキーは『コミュニケーション』だ」という。同社ではコミュニケーションロボットの開発を行っている。デジタルの普及で、希薄になってしまった身近な人とのコミュニケーションだが、それをデジタルのロボットがまた取り戻す。そんな未来を目指している。

ロボットが1家に1台ある未来

「私たちはロボットを創造する会社です。2025年に、家族の一員となるようなロボットが全ての家庭に1台ずつある世界を目指していきたいと思っています」

そう話すのは、ユカイ工学CMOの冨永 翼氏。ユカイ工学はロボットを創りたい人の集まりであり、その社内では色々なロボットが開発されている。ユカイ工学が開発するロボットは食器を洗う、洗濯物をたたむというような作業的なことをサポートするロボットではない。人と一緒に生活して、人とのコミュニケーションを深めること、それこそがロボットの本当の役目だと考えている。

ユカイ工学CMOの冨永 翼氏

ロボットが人間の行動をサポートする未来に向けて創られた、ユカイ工学の量産化ロボット第一号は「ココナッチ」というものだ。美しい曲線で丸みを帯びたキュートなデザインで、USBでPCとつなげば、TwitterやFacebookへの新着通知をブルブルと震えて知らせてくれる。そのほか、脳波で動くネコミミやチームラボとのコラボ製品など、多くのプロダクトを生み出している。

「当社CEOの青木は『必要だからではなく“こういうのがあれば面白い”という信念』でロボットを作っています。そして、家庭内に普及させるロボットとして、コミュニケーションロボット『BOCCO』(ボッコ)を開発しました。デザインにおいても、家に置いたときに違和感がないというところを非常に意識したロボットになっています」(冨永氏)

家庭内にある違和感のないロボットとは

開発のきっかけは、「スマートフォンを持たない子どもたちと離れていてもコミュニケーションを取ることができたら――。そんなお父さんお母さんの望みを叶えられるのはロボットなのかもしれない。いや、その望みを叶えるロボットをどうしても創りたい」という青木氏の想いからであった。

「家族」や「親子」にフォーカスするようになったのは、ロボットで解決できる課題があると感じたことからだった。

「スマートフォンを触っていたとき、『お父さんお母さんはSNSで、ほかの人がラーメンを食べている写真よりも、今日、自分たちの子どもがお昼ごはんに何を食べたのかの方が知りたいんだろうな』ってふと思ったそうです。大人同士なら、チャットアプリなどを使えばスムーズに日常を伝え合うことができます。でも、まだスマートフォンを持てないような子どもとのコミュニケーションには、ロボットを介することで実現できると確信したと話しています」(冨永氏)

そんな想いからBOCCOは誕生した。BOCCOという名前の由来は、東北弁のぼっこ(=子ども)に由来する。

「現代における『座敷わらし』を目指しました。見た目が可愛らしいロボットですが、家に置いておくことで、共働きで留守番が多いお子さんを見守ったり、1人暮らしの高齢者の方を見守ったりするほか、メッセージのやりとりもできるツールになります」(冨永氏)

家族の在宅状況の把握やメッセージのやりとりなどができるBOCCO。すでに海外進出を果たしており、アメリカのAmazonでも購入できる。小さい子供がいる家庭で利用されている日本とは異なり、アメリカでは高齢者向けの施設での使用が主流だという。BOCCOは高齢者に寄り添い、生活の一部になっていることから、今後もアメリカ以外での展開も期待されている。

振動センサーなど(写真左)と連動させることで、外出や在宅の確認のほか、防犯といったセキュリティ面での利用も可能だ

ミニマムな作りに無限の可能性

BOCCOは自宅のWi-Fi経由でインターネットに接続する。BOCCOのおなか部分に「再生ボタン」と「録音ボタン」の2つのボタンが付いており、それぞれ、着信したメッセージを再生したり、新しいメッセージを録音して返信したりすることができる。メッセージが着信した時は、首の可愛らしい動きは、猫の首の動きを参考したという。

BOCCO本体と無線でつながっているセンサーがあり、センサーが動きをキャッチするとスマートフォンに通知を送って知らせてくれる。

「ドアにドア開閉センサー(振動センサー)をつけておくと、お子さんが学校から帰ってきた時や、朝の外出の時間などのタイミングで通知を受け取ることができます。家族の生活の様子がわかり、安心感につながります。このセンサーを扉や引き出しの開閉、椅子やベッドの起居動作を検知させてもいいと思います。反対に予定外のタイミングでドア開閉の通知が来た場合は、すぐに子どもに確認することもできるので、親にとっては大きな安心要素となります」(冨永氏)

BOCCO本体は見守りにフォーカスしたミニマルな作りになっているが、Wi-fiとBluetoothを装備しており、各種センサーやウェブサービスと連携することでさまざまな使い方ができるという。

「毎日決まった時間に天気予報を伝えてくれたり、スマートフォンの位置情報を取得して家にいる子供に伝えたりもできます。会社帰りのお父さんが最寄り駅に着いたら通知を送り、子供に片付けをうながすこともできるんです(笑)」(冨永氏)

2025年にロボットが全ての家庭に1台ある世界を目指す

東北電力はIoTや人工知能、コミュニケーションロボットを活用したサービスの開発に向けた検証事業「よりそうスマートプロジェクト」にBOCCOを活用している。日本ユニシスと共同開発したBOCCOを使用しており、家族の在宅状況の把握やメッセージのやりとりなどの基本機能に加え、スマートリモコンによるエアコンの自動操作システムを組み込んでいる。コミュニケーションロボットを活用した家族間のコミュニケーションサポートやエアコンの操作補助、家電別の電気使用量から省エネを助言するサービスの2点を検証していくという。

これから家庭内にロボットが普及していくだろう。それと同時に家の中にあらゆるセンサーが組み込まれていく時代になっていく。その時、ロボットのメインとなるコミュニケーション機能に加えて、大量のセンサーハブになるものとしてロボットが存在できるのではないか、とユカイ工学は考えている。

「2000年前後には、多関節で歩いたりするというようなロボットが話題になりましたが、だんだんドローンやお掃除ロボットみたいなものも出てきました。今後はますますネットワークのスピードが速くなって、さらにクラウドのサービスがたくさん出てくることによって、どんどんロボットがコミュニケーションに寄り添ったサービス展開が加速していくと考えています。僕たちはかなりシンプルなロボットを造っているんですけど、そういったコミュニケーションをメインにしたロボットを今後ももっと作っていきたいですね」(冨永氏)

もしかしたら、このBOCCOがあの猫型ロボットの原型になるかもしれない。次世代のユーザーインターフェースとなる「コミュニケーションロボット」。今後、どのように発展していくのか楽しみだ。

緑豊かな温かみのあるユカイ工学のオフィス
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