「AIから遠い人ほど、AI社会で活躍するチャンスがある」、AIプログラミング学習サイトのCEOが語るAI論

「10秒でAIプログラミング学習が始められます」と言われたら、どう思うだろうか?

最近AIが何かと話題で、興味はあっても、「今さらAIの勉強をしても遅い」、「もう既に自分よりずっと詳しそうな人が沢山いるから、意味ないだろう」と思う人も多いのではないだろうか(かくいう、私も今からAI学習を始めることに懐疑的だった)。

しかし、「AIを専門としていない人こそ、今チャンスがある」と強く語るのは、先端技術オンライン学習サービスを提供する株式会社アイデミーのCEO・石川聡彦氏だ。

2014年、東京大学工学部在学中に起業。当初は「他人の意見も聞かず、ビジネスを起こしては失敗……を繰り返していた」が、起業3年目の2017年、VC等からのアドバイスを基に、AI学習サービスを考案。なんと幼少期に歌舞伎役者だった経験あり(!)

「10秒で始めるAIプログラミング学習」を掲げる同社は、2017年12月の同サービス正式リリースから、3ヵ月でユーザー数が1万人以上、コード実行回数100万回以上を達成した、急成長中のスタートアップだ。

東京大学在籍中に独学でAIを勉強し、複数の起業経験を経て、アイデミーを設立した石川氏。元々情報系専攻では無かった石川氏が語る、専門家ではない「普通の人」がAIを学ぶ意味とは。

AIのビジネスチャンスは、AIエンジニアではない人にこそある

―――AI分野は、もうすでにできる人が沢山いるので、私なんかが今さら始めても遅いのではないかと思うのですが、石川さんはどうお考えでしょうか?

今、AIではない業界の人こそ、AIを学ぶ価値があると思います 。

もともと、僕は情報系の専攻ではなくて、大学では都市工学科で水道関連の勉強をしていました。

人口知能に出会ったのは、卒業研究で、浄水路の洗浄の最適ログを機械学習で調べようとしたときです。上水路は定期的に洗浄する必要があるのですが、洗浄するベストなタイミングを機械学習で予測できるのではないか、と思ったんです。

僕の場合はAI×水インフラでしたが、今後AI×○○というような、業界特化型のAIがこれからどんどん伸びていきます。専門性のある人がAIを学ぶと、『うちの業界のこれってAIでデータ解析できるんじゃない?』っていうアイディアが出てくるんです。それぞれの業界の人が、AIを学べば、その業界のトップになれるはずです。農業×AI、金融×AIなど。

いわば、AIエンジニアではない人たちの方が、ビジネスを伸ばしていくチャンスがあると思います。

また、AIは、属人化されてきた「達人の技」を継承していく手段にもなります。例えば、金融のトップトレーダーがどうやって予測しているのか、それは今まではその人自身しかわからなかった。でも、AIを使えば、そうした達人の技を、ディープラーニングや画像認識で保存していくことができるんです。

―――なるほど、AIを専門としていない人こそチャンスがあるとは考えたことがなかったです!ですが、そうはいっても、AIの勉強は難しそうなイメージがあります。

AIやブロックチェーンは、実装だけであれば簡単なんです。AIを究めていきたければ、もちろん数学の知識が必須になってきますが、実装だけであれば、そこまで必要ありません。特に、理系出身者で、もう既に数学の知識がある人は始めない理由がないですね。

AIといい、ブロックチェーンといい、先端技術は学生でも本気で2、3年学べば、業界の先駆者になることができます。そもそも、AIを10年以上研究している人は変態です(笑)。 そういう人は本当にとても少ない。経験のない若者が、先駆者になれる可能性があること、これが先端技術の醍醐味だと思います。

アイデミーを思いついたきっかけは、AIの独学で苦労したから…?「学科の先生で、機械学習のことを質問できる人がいなかった。簡単にAIの勉強ができるリソースがあればいいなと思っていました」
なんとAIの書籍も出版している。「実装だけではなくて、AIの深い理解を得たい人におすすめです」

データサイエンティストの未来は本当に明るいのか?「AIのスキル1つで一生食べていくのは無理だけど…」

―――最近、データを提供すると、自動的に機械学習の予測モデルを作成サービスも出てきています。AIの自動化が進んでいくことに対して、アイデミーとして危惧はありませんか?ユーザーとしても、せっかくAIの勉強をしたのに、それさえも自動化されたら困る気がします。

データサイエンティストの人材不足感は、これから確かに縮んでいくんじゃないかと思っています。ただ、ウェブサイトが例えば無料で作れるようになっても、プログラマーはいなくなっていません。良い物を作るとなったら、やはりプロに頼むというところは変わらないと思います。

しかし同時に、『1つのスキルを学んで一生それで食べていく』というのは無理だと思います。これから、AIに限らず、色んな技術の学習コストはどんどん下がっていきます。また自動化が進むこともあるでしょう。その時に、他のスキルをいかに学んで活用しているかが大切だと思います。

そうやって新しいスキルが必要とされたときに、アイデミーが学ぶリソースを提供できる場所であり続けたいと思っています。AIのスキルはまだ必要とされていると思いますが、AI以外の講座もどんどん出していきます。

少し意地悪な質問にも誠実に応えてくれる石川氏

AI、ブロックチェーン実装、異常検知…次々生み出されるハイレベルな講座の製作ウラ

―――ブロックチェーン実装講座や異常値検知講座など新しい講座が続々と出てきています。どうやって、こんなに次々に講座が出せるのでしょうか?

ブロックチェーン講座の発表。石川氏のTwitterより

今は、100講座を目標に、毎月2本の新しい教材を作っています。4月に出したのは、異常値検知講座とブロックチェーン実装講座です。

次にどんな講座を出すのかは、アイデミーの顧問をしていただいている先生方と話し合いながら決めています。基準としては、これからAIの応用が進んでいくと予測される分野ですね。例えば、最近では異常検知講座をリリースしましたが、それは製造業を中心に、どんどんAIの転用が進んでいることを背景に、リリースを決めました。

教材は、社内でディレクションを決めて、博士や修士を持っているエンジニアや研究生に副業として依頼していて、最終チェックは社内で行っています。本を共同執筆する感覚に近いです。

アイデミーのメンバーは、僕も含め、そもそも先端テクノロジーが好きなエンジニアが多いんです。だから、AIだけではなくて、もっともっと色んな先端技術の講座を出していきたいなと思っています。

海外展開の最高の武器は、バーチャルYouTuber

―――最近、「アイデミーの授業講師にバーチャルYouTuberを起用する」というニュースがありました。何故バーチャルYouTuberなのでしょうか?広報的な意味も強いのかなと思ったのですが…。

バーチャルYouTuberによる授業イメージ。アイデミーのプレスリリースより

いえ、バーチャルYouTuberは、アイデミーが本気で海外展開していく上で、最高の戦力になると思っています。

今、当社は動画授業を出していません。日本人講師の日本語の授業だと、海外展開する際に吹き替えが難しいという問題意識から、動画授業に踏み出せていませんでした。

しかし、バーチャルYouTuberであれば、普通の人間の授業を英語に置き換えるときに吹き替えほどの手間がかからないと気付きました。また、動画授業では「この先生が良い、この先生は嫌」と講座の属人化が起きがちですが、そうしたことも防げることができます。

バーチャルYouTuberについて熱く語る石川氏

―――なるほど。ただの話題作りなんじゃないかと疑った見方をしていてすみません…。現時点で、バーチャルYouTuberからの応募はどのくらい届いているのでしょうか?

それが….

ないです。

応募、一件もないんです。

バーチャルYouTuberからの応募0に苦笑する石川氏

―――え、ではどうするのでしょうか…?

バーチャルYouTuber自身からの応募はないんですが、その代わり、バーチャルYouTuberを作るお手伝いをしたいという方と繋がりまして。
もともとは他社のバーチャルYouTuberを起用しようと思っていたんですが、今はもうアイデミーのバーチャルYouTuberを作ろうという話になっています!

よかった!!石川氏もこの笑顔。「バーチャルYouTuberは引きが強い」らしく、問い合わせも急増しているという

―――バーチャルYouTuberは海外展開を視野に入れての施策ということですが、特にどの地域をターゲットにしているのでしょうか?

特にターゲットにしている国があって、それはずばりインドです!アメリカなど英語圏の国々ももちろん視野にありますが、インドで特にニーズがあるんじゃないかと思っています。

去年1週間、インドのテクノロジーの中心地のバンガロールと、外資系企業が集まるグルガオンに滞在したのですが、エンジニアの数が多いのはもちろんのこと、先端テクノロジーに強い興味と意欲があるなと感じました。

インドのテクノロジー界隈の人が集まるパーティーにも参加して、日本以上に沢山のスタートアップがあって、『スタートアップこそ、1番憧れのキャリア』みたいな雰囲気を感じました。

インドのイベントに参加したときのお写真。しかし、インド滞在中は「家にこもっているほうが好きなので、ずっと日本に帰りたかった」そう。(画像は石川氏提供)

アイデミーで学べば、仕事もゲット。社会とテクノロジーを繋げる試み

―――バーチャルYouTuber以外に、現在計画されている事業はありますか?

今年の夏頃に、AI人材プラットフォームを作ろうとしています。アイデミーで学んでくれた人たちに対して、学んだスキルを活かせるような仕事へ転職支援をします。

また、企業に対しての開発支援も、今年の12月頃から始める予定です。アイデミーが提供するライブラリを使って簡単にAI開発をできるようにして、その最終チェックをアイデミーのエンジニアが責任を持って行うという構想です。

アイデミーが会社としてやりたいと思っていることは、社会とテクノロジーを繋げることなので、人材紹介も、開発支援も、そして先端技術の学習サービスも、そこの信念は一貫しています。


次々と生み出される先端技術の講座、バーチャルYouTuber起用、そして人材紹介の新事業まで、アイデミーの勢いは留まるところを知らない。

取材中、石川氏の学生時代の失敗談を話していたときに、「今は大成功ですね!」と私が言ったところ、石川氏は「まだ第一歩に立てたばかり」と謙遜混じりに答えた。

石川氏がアイデミーで目指しているものは、きっと、もっと大きいのだろう。

『最先端テクノロジーを社会に広げる』。それも日本だけではなく世界へ――。これからアイデミーが何を計画しているのか、どんな施策を打ち出すのか、ますます目が離せない。

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