AIで誰にでも利益を出せて儲かる農家へ、「農家への転職が身近になる」時代がやってきた

日本の農業に従事する人口は2016年時点で平均年齢66.8歳、65歳以上は65%を占めると言われ、高齢化が進んでいる。これは単に就農人口が高齢化しているだけでなく、新規に参入してくる人口が少ないことも原因にある。なぜ少ないか、それは平均年収が低い、生産が難しい、すぐに利益が出ない、といった「儲からない業界」であるからだと株式会社プラントライフシステムズの松岡孝幸代表取締役は言う。

自動車用制御システム開発を主事業内容とする会社を経営していた経験を活かし、その技術を農業へと転化させ「儲からない業界」に今、変革をもたらそうとしている。誰でも簡単に美味しい農作物を低コストでたくさん作れるようになったら、そして、その農作物を売る場所が用意されていたら、農業は魅力的な職業になるかもしれない。松岡氏が見る「儲かる農家」とは一体どういうものなのだろうか、その仕組みに迫った。

プラントライフシステムズの松岡孝幸代表取締役。「農業は間違いなく今後、成長市場になる」と話す

農業への新規参入障壁を下げる

今の農業生産構造ではなかなか利益は出にくいものになっている。これが日本だけでなく、世界的に食料自給率の低下を招きかねない。しかし、世界の人口増加率をみれば年1.4%ほど増加しており、人口が増えれば食べ物の需要は伸びる。

「人口が増え、食料需要が伸びるということは言い方を変えれば、市場が年1.4%増える成長市場と捉えることができます。それなのに、就農人口は高齢化し減少しています。それは新規の就農人口が増えていないことが挙げられ、それは、農業が『経験がものを言う産業』であることが理由だと思います。例えば会社員だった人が、0から農業を始めたとしてもすぐに『売れる農産物』を作れるのか、ということです。それは無理だと思います。そこに着目し、農家としての経験は当社のシステムで補うことができます。経験が0の人でも、システムの指示に従って行動すれば、大量に美味しい農産物が収穫できるのです」

同社のシステムでは、ベテラン農家が長年の経験で培ってきた高品質な野菜を育てるノウハウと、自動車開発プロセスで考案した画期的な予測制御技術を融合して、独自の野菜育成プログラムを開発している。それをベースに、地域の土壌や気候などの条件を加味しながら、さらに品質の高い作物を育て上げる栽培アルゴリズムを作成した。

この栽培アルゴリズムでは、センサーでビニールハウス全体の野菜の光合成量・糖度・水分量などの状態を計測し、専用データセンターのサーバーへ逐次送信する。その送られてきた生育データに対して、対処方法を適切に判断し、「水を控える」、「外気を入れる」など、野菜に最適な指示を農家へ送る。

「例えば自動車産業の場合、寒冷地、熱帯地の耐性実験をすべて現地でやっているわけではありません。シミュレーションとデータを元に検証を行っているんです。それと同様、この栽培アルゴリズムは、愛知県豊田市にある当社の実験農場における野菜栽培の実データと、コンピュータ上で高品質な野菜を生育させる栽培シミュレーションとデータの両方を活用しています。そして、常に改良を加えながらその精度を高めています。また、このシミュレーションとデータを活用した研修を行うこともできます。植物育成の手順や病気の見極め方など、3年分の経験を2週間で積むことができるんですよ」

土のセンサー。白い土は珊瑚の化石で保水力、保肥に優れている

農業におけるKPI設定とは

主に収穫量×作物単価が農作物のKPI設定になる。作物単価を上げるには糖度や栄養素などを上げるが、間引きするなどをして収穫量は減ることになる。反対に収穫量を増やすのであれば、あまり美味しくないものができあがり、単価は安くなる。今までは収穫量と作物単価の両立は無理だと考えられてきた。

「従来の水分制限栽培農法では、150坪の栽培面積でトマト4,000株を定植した場合、1回当たりの収穫量は10kgに留まっていました。しかし、同農法を前提とした環境下で当社栽培システムを活用した場合、トマト1,500株の定植でしたが、1回当たりの収穫量は40kgキロに達しました。通年の比較ではありませんが、4倍以上の収穫をすることができました。当社の栽培システムで本来のトマト生体の能力を最大限に発揮して、病気になりにくく高温化などの悪環境下でも生育させることができるということです。また糖度7.6の世界初の高収量高糖度大玉トマトの生育に成功させました」

栽培手法による生体優位性の違い。茎の太さが3倍も異なっている【同社提供資料】

ここまでの話だけなら、生産支援ソリューションに過ぎない。農業で利益を上げるには出口が重要であり、それが「農家の本当のニーズ」だと松岡氏は話す。

「農業はバリューチェーンが最重要になるんです。せっかく良いものを作ったのならば、それを適切に販売しなければ利益にはなりません。当社では『市場価格変動予測栽培支援システム』を提供しています。これは市況価格変動予測のパラメータを当社の栽培システムに組み込み、最適な出荷時期に合わせて収穫時期を調整。高く売れる時期になればアマゾンなどの各ECサイトや小売店、飲食店などに流通させます。収穫・出荷時期予測を考えて売りたい農家と価格変動の動きを見据えた買いたいバリューチェーンとをデータでマッチングするプラットフォームシステムです」

農作物であるため、どうしても規格外品が出てくる。これは加工用材料として販売する。これも高品質のためフードマテリアルとして高価格で買い取りされる。

自動車技術の集合体MBDを農業技術へ

自動車用制御システム開発を行っていた会社での経験から、自動車産業で培った技術が活かされている。それはモデル解析、センサーといった自動車技術の集合体であるMBD(モデルベース開発)であり、それらを農業技術へと転化させ、生体制御(生体AI)型栽培システムを開発した。

「培った技術を用いて、儲からない農業をどうすれば儲かるようになるのか、農業を効率化できないか、その答えは美味しいものをたくさん生産できればいいということにたどり着きました。でもそれは今までの栽培方法での実現は難しかったんです」

プラントライフシステムズの開発した新しい農業技術とは、①センサーで、農作物自体の生体状況(光合成状況、糖度、苦みなど)をタイムリーに測定、②低コストで安定的なデータ連携で、インフラ(電源、通信網)にとらわれないデータ送信方法を確立、③AIを活用して農作物自体の成長過程を詳細にコントロール――。

「そのほかに、アルカリ培地というのがあって、よく痩せた土地とも呼ばれたりするのですが、一般的には農業には向いていない土地です。この土地でも水量や溶液量の管理をAI、IoTを活用し、植物にとって最適な環境を作り上げることで、美味しく、より多くのトマトを生産することができるようになりました」

同社の栽培システムで栽培されたミニトマト。ちょうど良い甘さでしっかりとトマトの味がした

同社の栽培システムは現在、トマトで活用されている。年内にはメロン、お茶の栽培システムをスタートさせ、今後は野菜の栽培だけでなく、花卉類など、さまざまな生産分野にも活用の幅を広げていくという。

生体制御(生体AI)型栽培システムの概要図【同社提供資料】

ビッグデータは必要ない。教師起点型のAIを活用

農業が抱える就農人口減という課題には、収入が低いということがあると先述した。そもそも収入が低いのに高価なシステムを導入することは難しい。

「当社の農業におけるAI開発では、少量のデータで解を導き出す教師データ型のAIを利用しています。人の発想を起点に解を導き出す、つまり少量のデータで解析しており、ビッグデータ解析型ではないため、低コストで安定的なインフラ構築が可能になりました。またセンサーについても、工業製品ではないため、高度なセンサーファシリティーは必要ありません。例えば工業製品で言えば、ネジひとつとってもすべて同じ寸法が求められますが、トマトであれば全く同じ大きさでなくてもいいのです。それゆえ、安価なセンサーでも十分なシステム構築ができました。低コストでの農業×AI×IoTを実現したかたちです」

プラントライフシステムズのシステムは関数が根幹に活きている。自動車技術で培った関数、アルゴリズムといったものとAIを掛け合わせることで、高価なセンサーの必要性はなくなった。また安価なシステムを確立したことで、そのまま海外への展開も考えられる。

「農業という業界は、世界のどこにいっても所得が高いというような国・地域は多くはありません。また、そういった場所は高度な通信インフラが整っていない場合がほとんどです。ビッグデータ活用するようなシステム、最新鋭の高度なセンサーなどを組み込んだ高価なシステムを作っても導入してもらえません。導入コスト、導入ハードルを下げて、生産性向上に活用してもらう。そして、人口増に伴う食料ニーズに応えるための農家を支える、これが当社の目指すところです」

このシステムを稼働させるのに大きな電力を必要としない。そのため、小型太陽光発電パネルなどでも充分に稼働可能であり、電源確保が困難な地域や途上国などでも活用できる。

同社は高糖度トマトの一大集積地としての知名度を上げてブランド化していくという、「長万部町地方創生事業プロジェクト」に参画している

今まで見たり触れたり五感で感じ取っていた農業の仕事。これは長年の経験に頼らざるを得なかった。プラントライフシステムズは、経験を技術でカバーでき、収穫量と作物単価を両立させ、それを最適な時期に出荷することができる最先端の栽培システムを実現した。この栽培システムがあらゆる農作物に対応できるようになれば、日本の食物自給率を向上していくだろう。松岡氏はこのシステムを活用することで、世界の飢餓や食べ物の取り合いによる紛争もなくせると考えている。生産者と消費者である我々がともにWin-Winになれることを期待してやまない。

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