水産業界を変える!独自の目線で生まれた、プラットフォームの再構築。

2018年2月6日、エンジニア向けの勉強会TechMashにて「日本の『食・農』をWebで変革しNight」を開催した。これまでITを活用することが難しいと考えられていた、食べ物の生産や流通という分野。今回のイベントでは、「食べ物の生産や流通」のあり方を変えようとしている登壇企業3社が、サービス開発・運用現場での取り組みなどについて語った。

私たちが何気なく感じる「もったいない」という気持ちは、日本特有の文化だ。そのため、「もったいない」という言葉は海外でもそのまま使われているのだとか。しかし、そんな「もったいない」精神発祥の国でも、「もったいない」ことは多く存在する。今回特に注目したのは、第1次産業における「もったいない」。水産業では規格外となった魚や、水揚げの際に傷がついた魚などは捨てられてしまうことがあるようだ。そういった現状をITで変えたいという想いから水産業に参入したのは、株式会社フーディソン。2013年に設立し、「世界の食をもっと楽しく」という理念を掲げながら水産業の様々な課題に対してプラットフォームの再構築を目指している。同日は、同社CTOの上田智氏にご登壇いただいた。

TechMashでは「エンジニア×新規事業」や「エンジニア×IoT」など幅広いテーマで勉強会を定期的に行っている。

水産業界に新たな風を巻き起こす、フーディソンとは?

当社では、飲食店向けの鮮魚のECや小売業のほか、産地と組んでのPR活動など、様々なサービスをつくり上げています。例えば、魚ぽち(UOPOCHI)というサービスは、飲食店関係者と漁業関係者間のファックスや電話でのやり取りをIT化することで、利便性を向上させています。また、4店舗の鮮魚店を展開していまして、sakana bacca、おかしらやという2つのブランドを持っています。実はこれらの店舗は他企業に経営を持たせるのではなく、当社の社員が売っているんです。内装や外装もすべて当社のデザイナーが設計してつくっています。他にも、人材の紹介や採用などのビジネスを手掛けています。魚の加工というのはエンジニアと同じくスキルが必要でかつニーズも大きいんです。

同社CTOの上田智氏

複雑で多岐にわたる水産業界の課題

水産業における課題はいくつかありますが、まず最初に出るのは鮮度の問題です。魚は水揚げされてから商品として売れるまでの時間が2日しかありません。これは魚の種類にもよりますが、例えばクエという魚はもう少し日数がもつんですよ。しかし、これが貝だとすぐに売らないと商品価値が駄々下がりになってしまいます。ですので、飲食店に魚を出す際には、鮮度を意識した出し方をします。例えば、あの店に行く配送便はこの時間だから、この魚を商品として出す、というように考えて後ろから計算しなければいけません。配送の都合から商品が注文可能かどうかが決まるという厳しい面がありますね。
続いて不定貫問題という課題もあります。鮮魚は野菜とは違い規格がしっかりしていないんです。1㎏当たりいくらで売るかは決まっていますが、その魚が何㎏あるのかというのはかなりブレがあります。魚を売る時に、「この魚は2.5㎏だから3500円ね」というように計量して値段が決まっていきます。
また商品名の揺れが大きいという課題も出てきます。例えば、出世魚の名前だとか地方や担当者による名前の違いがありますね。これをマスターするのはとても難しいです。他にも同じ魚でも産地が違うと同じものとしていけないということもあります。また魚のサイズによっても同じ商品としてみなしてはいけないので、大きさの境目を見分けるのも難しいですね。
さらには天候で漁獲量が違うので、相場変動が激しいことも課題の1つに挙げられます。

課題解決の糸口は独自に内装したツール

水産業界の課題に対して今までの業界の人々は、人力や電話などで柔軟な対応をしてきました。ITではそこの融通があまり効かないので、当社ではそれに合う独自のツールを内装しました。
1つ目はchawanというものです。文字列で来る商品を解析して、産地や業者による名前の揺れを正規化し、その情報を構造化するライブラリです。
2つ目は計量アプリです。QRコードを魚に張り付けて、それを読み取って計量器で図ると、その魚が何㎏かデータベースに触接入るようになっています。すべてをIT化することはできなくはないのですが、まだそこまでのステージには達していないんですよね。
3つ目は帳票です。紙は重要になるので、エクセルやPDFを大量に生成しなければいけません。それをレンダリングするJAVA製のサーバがあったり、きむラベラーというECとラベリングプリンターを繋ぐものを利用してITによる課題解決を図っていきます。

「食・農」をテーマとした今回の会場では、彩豊かな料理が並んだ。

ビジネスを考えながらの開発体制

基本的には、Ruby on Railsですが、ニーズに応じてPHPやJAVAなどいろいろと使っています。インフラは基本的にはAWSです。ただ、外部サービスに追い出したほうが工数がいらないものもあるので、RollbarやNew Relicなどを使っていて、ファックスとメールを接続するefaxやAUTO帳票Directといったものも使ってカバーしています。
現在は社員が60人ほどの中、UXデザイナー1人、エンジニア6人という体制です。今いるエンジニアはほぼサーバサイドなので私が1人インフラを見ている状況です。そろそろインフラを見てくれる人が1人か2人いてくれればなと思っています。あとはCSSやJSに強い人。みんなできるのですがものすごく得意というわけではないので、そういう方が来てくれれば嬉しいですね。また、教育が難しいのである程度のスキルと当事者意識を持っている人かどうかは重要視しています。と言うのも、当社ではエンジニアも一緒にビジネスを考えて欲しいと思うからです。1on1を月に1回やっていますが、エンジニア側からこういったものはどうですかと提案されてすごいなあと感じたり、意思決定をする際に助かったりすることもありますね。

最終ミッションは「世界の食をもっと楽しく」

当社では最終ミッションのために、まずは水産分野化からスタートしていこうと考えています。そのきっかけとなったのは、代表の山本が旅行した時に魚が捨てられたのを目にしたことです。魚というのはある程度のまとまった量で売るか、高級魚を1尾ずつ売るのかどちらかではない限り、流通に乗せると逆にコストが高くなってしまいます。せっかく水揚げされた魚でも、利用されずに岸壁から捨てられていることが頻繁にありまして、非常にもったいないと感じました。その状況をITで解決しようというところがスタート地点となったんです。
魚は漁港で水揚げされると、産地の卸売業者や仲卸業者、消費地での仲卸業者などいくつもの場所を経由して消費者に届きます。商品となる魚は1ヵ所に大体2時間程しか留まらず、タイトな時間で流れていくんですね。そして利益率はそこまで高くなく、全員が厳しい状況に置かれています。我々はその部分をITの力で改善できるのではないかと考えています。魚が売られるまでの流れには必然性があるので、1個でも段階を飛ばすのは難しいんです。今は、それぞれの段階で基盤をつくり、ある程度の筋は見えてきたかなというところです。最終的には全てをプラットフォーム化して、当社を通して漁師と消費者を直接的につなげられるところまでいければと考えています。

後半は、登壇企業3社によるパネルディスカッションが行われた。

IT化で見える、未来の社会

水産業に特化することではないですが、第1次産業のこれからは高齢化が進むことでニーズが減っていくなと考えています。利害が対立するような会社の人でも上の方の人はその利害の部分が見えるので、「今後フーディソンがITに力を入れてやっていかないとこれから水産が立ち行かなくなるよ」というように応援してくれる人もいます。いま、Amazonの倉庫の中でロボットが動いていますよね。3年後になると我々のような小さな会社でもその技術ができるようになってくると思います。機械学習などは適応できる分野なのでカバーできると思いますし、センサーやロボットといったIoT分野でも我々のような会社が活躍できるかなと感じますね。それに伴い、エンジニアは様々な技術を求められていくと考えています。

水産業界におけるプラットフォームの再構築を進めるフーディソン。独自の目線で見てきたからこそ生まれた、課題解決策の数々。水産業界での食の生産・流通のあり方を変えていくための、彼らの挑戦は続く。

[contact-form-7 404 "Not Found"]