AIが叶える理想の住まい探し、「あなたが住みたいと思う住宅はこれではありませんか?」

今、住宅購入を検討している、今後、購入する予定だという読者もいるのではないだろうか。土地や住宅の選び方に新しい選択肢が追加されることになりそうだ。AIがユーザーの好みやライフスタイルに合わせて土地や住宅の構造、間取りなどを提案する。さらにAR技術を活用し、完成後の住宅イメージも確認できるという不動産Techを搭載したアプリが今秋リリースされる。
VRなどの技術を使った住宅販売を展開する株式会社ジブンハウスと、VR/MR研究の第一人者・東京大学生産技術研究所の大石岳史准教授、株式会社アスカラボとの共同研究で、住宅・不動産分野におけるAIとARを活用した不動産Techの新技術開発を推進している。この3者で共同開発した新しいアプリ「不動産AIR」(仮称)について話を伺った。
AIとARを活用した新しい住まい探し
ジブンハウス常務取締役の内堀雄平氏は、「『不動産AIR』は大きく2つの機能を持ったマッチングアプリになります。ユーザーと土地+住宅をマッチングさせる、もうひとつはその土地にどんな建物が建てられるのかをマッチングさせるというものです」と話す。

家が建つまでの過程は大きくふたつの要素分解することができる。ひとつは土地を探すこと、もうひとつは自分の希望と選んだ土地に合う住宅を探すということである。土地探しについては、どうしても自分が知っている地域から探すことが多くなるが、不動産AIRでは、今までと違った土地探しを提案する。AI活用により、思いもしなかった魅力的な土地にめぐり合うことができるかもしれない。
それは購入を検討しているユーザーの趣味、嗜好からどんな土地が良いのか、どんな住宅を建てれば良いのか、AIが提案してくれるというものだ。
「例えば、自動車や音楽が好き、料理やガーデニング、ペットが好き、サーフィンが好きといった趣味・嗜好から曖昧検索が可能です。そういったワードから海の近くの土地、ペットが暮らしやすい土地、日当たりの良い土地など、自分たちでは思いもよらなかった場所の魅力的な土地をも探し出します。そして、自動車ガレージや防音のスタジオがある家、広いキッチンや庭がある家、海近くのサーフボードがかけられる壁がある家など、その人の趣味・嗜好を叶える住宅選びまでを提供します」(内堀氏)
土地から探す、暮らしたい場所から、便利な路線から、あるいは今いる場所からGPSデータを使って直感的に探し出す事もできる。土地選びの選択肢が広がることは間違いないだろう。

何もない更地に一瞬で住宅が建つ
いいなと思う土地が見つかれば、実際に現地に行って見たいと思うだろう。ただ、現地に行ってもそこには何もない更地があるだけだ。
一級建築士・宅地建物取引士であるジブンハウスの樋貝真治氏は、「更地では、住宅が建つということがイメージしにくいと思います。そこでAR技術を活用して住宅が建った状態をアプリで見えるようにしました。外観だけでなく、家の中にAR上で入ることもできるんですよ。例えば、キッチンから見える窓からの景色なども簡単に確認することができますので、よりマイホームのイメージが掴めると思います」

例えばその住宅が思っていたものと違うなと思えば、アプリをちょっと操作するだけで、その土地に建てられる住宅を簡単に何軒も見ることができるという。
「また、スマートフォンやタブレットPCがひとつあれば、いつでもどこでも土地や家を探すこともできます。初めてマイホーム購入を考えている20代~40代の世帯は、夫婦共働きということが多いのですが、夫婦別々の時間、例えば仕事の昼休み中に探した土地や家の情報をお互いにシェアすることもできます。また、当社が行ったアンケートでは、対面営業だと仲良くなってしまうと断りづらくなるなど、気を遣ってしまう、苦手という声がありました。このアプリなら人を介さないので、納得するまで探すことができると思います」(樋貝氏)
不動産 AIRで見られる住宅は、まずジブンハウスが持つ住宅データベースより、およそ100戸からスタートするという。
「2021年までには300社と提携し、3万戸の住宅データの提供を目標にしています。バーチャル展示場も設け、アプリと連動させたサービス展開も考えています。それにはいろんなハウスメーカーが持つ住宅のデータベースが集まってくるプラットフォームのような仕組みができればいいなと思っています」(内堀氏)

従来であれば土地が決まったら次に、そこに建てる住宅をどうするのか考えなければならなかった。これまでは休みの日を利用し、住宅展示場などに行って希望に合う住宅を探すというのが主流だった。
「住宅展示場に行ってもひとつの展示場で見られるのは数軒程度ですよね。もっと住宅を見ようとなれば、ほかの展示場も回ることになると思いますが、それでも1日で何軒を見ることができるでしょうか。また休日の都度、展示場回りをするとなるとそれなりの労力になります。この住宅展示場に行くという探し方に対して、アプリでどこまでできるのか、そこに挑戦したかったんです」(内堀氏)
今まではどんなライフスタイル、暮らしが良いのか、その当事者でもよく見えずに家探しを行っていることが多いという。それゆえ、いざ完成した住宅を見てみるとイメージと違っていた、というのも珍しい話ではなかったという。
「住まい探しは一生のうち、何回もない大きな買い物であるのも関わらず、住んでみないとわからない博打的な要素が強い側面を持っていました。その部分を変えたいと考えています」(内堀氏)
研究機関との共同開発を進めるAR技術
ジブンハウスと共同研究で進めるアスカラボはVR/AR/MR技術を用いて、飛鳥京や一乗谷朝倉氏遺跡などの遺跡復元や建築シミュレーションを手がける、東京大学発ベンチャー。同社の代表である岡本泰英氏は、今回、参画している大石准教授の東京大学生産技術研究所で特任助教も兼務している。

AIプログラムとAR技術は、東京大学生産技術研究所とアスカラボが開発し、土地データベースとモデルハウスのデータは、ジブンハウスが提供している。
「ジブンハウスとのかかわりは2017年8月、共通の知人を介して打合せの場を持ったのが最初です。大石准教授にも参画していただき、3者での共同研究がスタートしました。東京大学生産技術研究所とアスカラボとしては、今回の参画を通じて新しい仕組みやシステムの研究開発を行っていきたいと考えています」(岡本氏)

日本の国家課題でもある空き家対策も視野に
今、日本国内の空き家がどんどん増えており、持ち主も費用がかかるので売れなければ壊して更地にも戻せない。しかし、住宅は人が住んでいないと老朽化が進み、倒壊する恐れもあることから、国家的な対応が求められる喫緊の課題になっている。ジブンハウスは今後、日本の空き家対策にもこの不動産AIRを活用していく考えだ。
「老朽化した住宅は更地にして新築に建て替えるか、元々ある住宅を活用してリノベーションするかになるかと思いますが、どちらにしてもその元々ある住宅からはイメージしづらいですよね。そこで、当社のアプリを使って、新築の家、リノベーションした家を見ることができれば違ってくるのかと思っています」(内堀氏)
IT技術の活用がなかなか住んでいないと言われている不動産業界に新しい風が吹き始めた。この不動産AIRでは、ただ土地を探せる、ただ住宅がARで見えるというものに留まらない。AIを活用することで、その人のニーズに合った土地や住宅を探し、理想を叶えてくれるライフスタイルが実現できるかもしれない。不動産Techが今後ますます加速していく、そのスタートとなる部分を垣間見た。