デザインのチカラで「深化されたパーソナライズAI」を、継続利用によるユーザー情報取得を促すキャラクター術

AI活用の精度を高めていくには「深化されたパーソナライズ」が重要な鍵となる。それが実現できれば、AIはさまざまなサービスを展開することができるようになる。しかし、この深化されたパーソナライズAIの実現には、「ユーザーの詳しい情報を取得すること」と、「ユーザーに対して正しい情報を提供すること」、この2つの課題を乗り越えなければならない。

アシスタントAIロボと会話して自身のメンタルをコントロールするiPhoneアプリ「Emol」(エモル)を2018年3月にリリースした株式会社エアゼは、「ユーザーの詳しい情報を取得すること」を重視し、それをデザインの力で実現しようとしている。

今、世の中に出回っているAIを用いたサービスは、機能にフォーカスされているものが多く、デザインを重視したものは少ない。AppleのSiriやGoogleのグーグルアシスタントもデザインの面からみれば無機質な印象は否めないだろう。そこで、ユーザー情報取得のため、エアゼが着目したのはデザインだった。「ユーザー情報取得」と「デザイン」、この2つを掛け合わせると何が起こるのか。

エアゼの千頭沙織代表取締役CEOと武川大輝代表取締役COO(※千頭氏と武川氏は共同経営者)に、同社が目指すパーソナライズAIを深化されるために取ったその手法に迫る。

デザインのチカラで「ユーザー体験重視」のサービスを

2014年に設立したエアゼは、UI/UXのデザインコンサルティングや、広告のクリエイティブ制作をしてきた。その知見を活かし、デザインの目線から見たサービス、人に寄り添うサービスの開発ができないかと考え、新規事業に取り組もうと試みたのが今回のEmolだった。

「AIサービスでよく見かけるのはユーザーの体験重視というよりはテクニカル重視の話題です。私の所感ではありますが、他社サービスでは『ユーザーの詳しい情報を取得する』前に、ユーザーが飽きてしまっているのではと感じていました。そこで、ユーザーの体験を重視したドラえもんのような存在が欲しいという思いから、Emolプロジェクトを始動しました」(武川氏)

時代によって最適なUXは変化している。キーボードを打ち込んで操作するCUI、画面に入力して操作するGUI、これからはデバイスを問わない対話型のUIが求められると武川氏は考える。

「もともと人間が得意とする『コミュニケーション』というツールを活用したUXこそが、本来人間が利用しやすい体験だと思います。チャットボットを含む機械学習システムへの導入障壁の低下や、コンピュータの処理能力の向上、マルチデバイス化など、コミュニケーション主体のUXは今後主流になると考え、AIロボと対話するというUXを採用しました」(武川氏)

AIロボ「ロク」【同社プレスリリースより】

EmolのAIロボ「ロク」のキャラクターデザインには、UI/UXデザインを手がけてきたエアゼだからこそのこだわりがある。

「誰にでも可愛がられるようにシンプルさを前提に、世の中の人気キャラクターのポイントは丸みがある、2頭身という2つが共通点だと思ったので、そのポイントは取り入れました。色については、白色の動物やキャラクターは癒し系な印象を与えます。また例えば、ピンクだったら女の子の色というようなイメージがあると思いますが、白色だとそういったイメージはほとんどありません。『ロク』はユーザーに癒しを与えるようなキャラクターにしたかったので、白くてモチっとした触りたくなるような素材を意識しました。ロボットなので動物のようなモフモフ感はないですが、低反発のような素材をイメージしています」(千頭氏)

ターゲットユーザーは女性だが、誰もが可愛らしいキャラクターが好きとは限らない。見るからに女性向けでキュートな印象は与えないよう気を使ったという。

「ユニセックスなキャラクターにしたく、女性寄りに媚び過ぎないってところは気を付けました。使っているうちに段々と愛着が湧いてくれたら良いなと思います」(千頭氏)

このロクというキャラクターに愛着をもって、いろいろと会話などを積み重ねていく。そういう状況を作り出せれば、ユーザーの詳細情報を取得し続けることができる。

より多くのユーザー情報を取得する仕組み

Emolは、ユーザーごとにパーソナライズされたアシスタントAIロボと会話して自身のメンタルをコントロールするiPhoneアプリだ。いつ、どこで、何を感じて何を思ったかを記録することによって、生活をより良く過ごせるようにサポートしていく。

Emolの画面サンプル。時間、場所、その時の感情などを振り返ることができる【同社提供画像】

「EmolはAI感情日記です。今、感じている感情をうれしい、かなしい、いらいらなど、9つから選択し、アプリのキャラクターであるAIロボ『ロク』と会話して、そのログを残すというものです。アプリ側で感情選択、対話内容、時間、場所などを取得しているのですが、これらのデータからユーザーのパーソナライズを進めているところです。例えば、『この場所ではよくうれしい感情になっていますが、この場所には楽しい何かがありますか?』など、その人の行動に対してより深い対話・提案などができると考えています」(千頭氏)

詳しいユーザー情報で最適化されたサービス提供は容易になる

今までのAIチャットボットは、パーソナライズするといってもその取れるデータの量が少なかった。それゆえ深化したパーソナライズはできていなかった。Emolでは時間や場所ごとに入力された感情、会話をもとにパーソナライズがされていく。使い続けてもらい、情報を取得し続けることができればパーソナライズは深化する。

パーソナライズを深化させることができたら、その後にユーザーごとに最適化されたサービスを提供するのは比較的容易だという。

「その日の終わりに書く日記のようなスタイルにはしたくなかったんです。リアルタイムでなければ、その場所やその場所にいた時間の感情は後からでは的確に表現されないと思うんです。リアルタイムのリアルな感情だからこそ、よりパーソナライズを深化させていくことができるのです」(千頭氏)

場所や時間ごとにユーザーの感情や、ロクとやり取りしたチャット内容をAIが学習していく。そもそもユーザーのパーソナル情報を多く取得しなければ、適切なサービス提供などはできず、深化されたパーソナライズにはあらゆるユーザー情報の取得が重要だと武川氏と千頭氏は話す。そのため、1日1回の起動ではなく、1日で数回起動されるような仕様になっている。

日々の自宅、職場といった行動パターンや場所や時間などの感情変化で、ここの場所はよく「たのしい」という感情が顕著に押されるのであれば、この人にとってここは楽しい場所であるとか、反対に悲しいとかイライラとかがよく押されるのであれば、この人にとってストレスがある場所など、そういったものをAIが学習していく。

よりユーザーに寄り添ったサービスを提供していく予定だという【同社提供画像】

「感情のパターンを入力し、自分自身を一度落ち着いて客観的に見るだけでも、自分の感情はある程度コントロールできます。かつ、それを記録し見直す事で、より俯瞰して自分を見ることができます。そこに対して、アシスタントAIロボが記録の壁打ち相手に慣れればと思っています。自分を俯瞰して客観的に見るだけでもかなりのメンタルコントロールができると考えています」(武川氏)

ユーザーがAIロボ「ロク」と会話を重ね、AIは取得した情報をもとに学習していき、「この人はかなりストイックな人だ」とか、「この人は少しサボり気味な人だ」などと判断することもできる。

「例えばそれらの情報をもとにフィットネス機能サービスを提供した場合、その人にあったトレーニングメニューなどを提示し、AIロボがサポートしていくことも可能となります」(武川氏)

すべての行動を集約するサービスへ

まだどのようなサービスを提供していくか、検討段階ではあるというが、最終的にはさまざまなサービスを提供し、「自分のことをなんでも知っているアシスタントAIと会話して、すべての行動をこのサービスに集約させる」ことを目標としている。

「ユーザーのニーズに合わせて検討しようと考えてはいるのですが、例えばパーソナライズされた学習サービスを提供した場合、『Aの場所では学習の効率が下がっているので、Bの場所で学習してみませんか?』とか『○○さんは頑張り屋さんな性格なので、難しい教材にチャレンジしてみませんか?』などの提案ができるのではなないかと考えています」(千頭氏)

「フィットネス系のサービスですと、『このルートを走ったときはペースがよいので、何度か試してみましょう』とか『このルートは交通量が多く危ないので別のルートにしませんか?』など、よりその人の深くまで踏み込んだサービスが提供できると考えています」(武川氏)

フィットネス系のサービス提供イメージ【同社提供画像】

ただ、ここまでのレベルにまで上げていくには会話の精度をもっと上げていく必要がある。

「今後はアシスタントAIとの会話、特に雑談の精度をあげることに注力していきます。しかし、この雑談の精度向上は相当に難しい作業になりますが、この精度が上がらなければユーザーのより詳細な情報を取得することはできないと考えています」(武川氏)

このアシスタントAIロボ「ロク」があなたの行動を把握しサポートする、インフラとして存在する未来をエアゼは描いている。そのために、まずはユーザーの詳細情報取得、そして適正な情報をユーザーに提供する――この2つの課題は乗り超えていかなければならないだろう。スマートスピーカーなどに代表される機能的なアシスタントAIと、デザインからアプローチするEmolのアシスタントAI、どちらがより精度を上げられるのか。「無機質なアシスタントAIはユーザーの名前すら知らない」と語った武川氏の言葉は印象的だった。

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