「AIを市民に」アクセンチュアが読み解く、今後3年間の重要な技術トレンド

アクセンチュア株式会社は、2018年に企業が押さえるべき最新テクノロジーの調査レポート「Technology Vision 2018」(※1)において、今後3年間で重要となる5つのトレンドを定義している。その中のひとつに、ビジネスや社会に恩恵をもたらすAIの育成、つまり「AIを『市民に』(CITIZEN AI)」というものがある。それは単にヒトをAIに置き換えるのではなく、ヒトとAIが互いの長所を活かした「協働」を目指すことにある。

アクセンチュアはAI、高度なアナリティクス、クラウドなどのテクノロジーの急速な進化によって、顧客やビジネスパートナーとの関係性が変わりつつあると指摘する。

アクセンチュアの調査によると、企業や組織の上級役職者およびIT担当役員の84%が「自社は、テクノロジーを使って人々の暮らしに入り込みつつある」と回答。今後3年間で何が起きるのか、そのキーとなるトレンドに迫る。

アクセンチュア・テクノロジーコンサルティング本部の山根圭輔氏。同社は4月19日、調査レポート「Technology Vision 2018」の記者説明会を開催した

AIを「育てる」ことで顧客満足度が68%から88%に向上

AIが人間のパートナーとして急速な進化を続けることで、人間とAIとの接点が増え、その影響力も増していく。そして、AIの可能性を最大限に活かすためには、その影響力を正しく認識することが重要だ。人と真に協働できるAIを実現するには、AIにタスクを実施させるためのトレーニングをする、という発想では不十分になり、社会の一員として貢献できるよう「育てる」という発想に切り替えていく必要が生じる。

同社テクノロジーコンサルティング本部の山根圭輔テクノロジーアーキテクチャグループ マネジング・ディレクターは、ヒトとAIが互いの長所を活かした協働を目指すべきと踏まえたうえで、「顧客の対応といった場面でアクセンチュア調べによる顧客満足度では、ヒト単独が68%、AI単独が60%、ヒト+AIが88%という結果が出た。単独時よりも協働することで高い成功が見込める例となった。ヒトは課題定義や抽象的問題の取り扱い、柔軟な対応など、AIは大量データやスピード、24時間365日労働など、それぞれの得意分野を活かした起用が重要だ」と話した。

今後3年間で、AIの得意領域を見極め、ヒトとAIが協働するプロセスを再構築する。AIの判断については、透明性を持った説明責任および法的責任を明確化し、企業が対応する。AIが市民として活躍できるよう、ヒトと同様にさまざまな観点から育てる――などの取り組みが進んでいく。

AIを育てることとは、決定や行動の理由を理解させることから、その決定や行動に伴う責任を引き受けることまで、人間を育成・教育するのと同じように多様な課題に取り組むことを意味する。これからの企業リーダーは、AIが担うべき新たな役割や社会に与える影響を認識し、定義していくという課題に取り組むことになるだろうとまとめた。

5つのトレンドについて、AI以外のものでは、①拡張現実(Extended Reality):距離の消滅、②データの信憑性(Data Veracity):信用が第一、③摩擦ゼロ・ビジネス(Frictionless Business):大規模パートナーシップ構築のために、④インターネット・オブ・シンキング(Internet of Thinking):インテリジェントな分散環境の創造――をあげた。

「Technology Vision 2018」で定義された5つのトレンド。今回のテーマは「インテリジェント・エンタープライズの勃興:自社を『再定義』する」【同社提供画像】

日常的に起こっている創造的破壊

アクセンチュアが日本を含む82ヵ国で年商1億ドル以上の企業3,629社(日本企業は367社)を対象に行った最新調査では、「現在直面している創造的破壊の度合い」と「将来的な創造的破壊がもたらす影響力」の2点を分析。63%の企業が「すでに大規模な創造的破壊に直面している」と回答し、44%が「創造的破壊の兆候を強く感じている」と回答した。世界中で多くの大企業が、業界の垣根を超えた創造的破壊をすでに経験していることが分かった。

「Technology Vision 2018」は、今後3年間でビジネスに創造的破壊をもたらす重要なテクノロジーのトレンドを予測した年次調査レポートだ。AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化が、それを活用してかつてない社会変革をもたらす企業を誕生させ、人々の暮らしに入り込むようになると予測している。そうした流れが進んでいく中、顧客は企業の製品だけでなく、目指すゴールや価値観などの「ラベル」を読むようになるという。

企業は、自社が掲げるものを明確に定義する、あるいは、自社が寄って立つべきものをしっかりと持つ必要がある。顧客は、単に製品だけでなく「パートナーシップ」関係を求めるようになり、企業が掲げる価値観やゴールといった「企業ラベル」を読むようになるのだという。新たな価値を社会へ提供していく企業は、社会との相互関係をいかに展開していくのかを明確に示し、高まる期待に応えていかなければならない。

同社の立花良範執行役員・デジタルコンサルティング本部総括本部長は、「企業が顧客の期待を裏切ると、顧客を失望させるだけでなく、事業の喪失にもつながる。企業が大きければ大きいほど、社会へ与えるインパクトも相当なものになる。失った信頼を再び築くには、並大抵の努力では済まない」と述べた。

アクセンチュアの立花良範執行役員・デジタルコンサルティング本部総括本部長

テクノロジーは、人々の生活に入り込み、社会の至るところを作り変えようとしている。こうした変化はデジタルの世界に留まったものではなく、リアルを含むあらゆる接点にテクノロジーが組み込まれた時代が到来し、大きな変革へとうねりをあげはじめているという。ビジネス、社会、ヒト、暮らしなどをはじめ、今後、物凄いスピードで変化が起きていくだろう。今はその創世記に立っているのかもしれない。

(※)「Technology Vision 2018」は、今後3年間でビジネスに創造的破壊をもたらす重要なテクノロジーのトレンドを予測した年次調査レポート。人工知能やブロックチェーン、仮想現実、分散システムなど、社会やビジネスを変革する力を持つ先端テクノロジーに、企業や組織がどのように向き合い、活用すべきかについて、日本を含む25ヵ国18業界に渡る6,300人以上の企業幹部への調査に基づき、今後3年間で重要となる5つのトレンドが定義された。主な回答者は、年商5億ドル以上の企業の上級役職者および部門・部署の責任者であり、大多数の企業は年商60億ドル以上になる。

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