「オリンピックは未知のチャンス」。ホテル業界×ITスタートアップはベストカップル?
東京オリンピックが2年後に迫っている。
日本を訪れる外国人観光客は年々増加しているが、一方でホテル業界は人手不足が深刻だ。だが、人工知能がホテルの市場分析を行う「ホテル番付」と、最適な料金設定を自動で行う「MagicPrice」を開発している株式会社空のCEO、松村大貴氏は東京オリンピックを「ITスタートアップにとって好機」と語る。「テクノロジー×料金設定」の分野を極め、ホテルと利用客の双方がwin-winな世界を実現しようとする真意に迫った。
AIの力で宿泊料金を最適化するMagicPrice
株式会社空が提供する「MagicPrice」は、ホテルの宿泊料金の設定を人工知能が自動で行ってくれるサービスだ。ホテルの過去の予約データを分析し、適切な料金を自動で提案する。そのためホテルの担当者は、ふつう非常に手間のかかる料金設定の労力を大幅に削減でき、ホテルの経営戦略やホスピタリティといった分野に注力できるというわけだ。以前に我々Mewcket編集部が取材した、ホテル市場の分析を行うサービスホテル番付と併用することでより効率的な運営が期待できる。
分析するデータは、①季節や地域性(周辺にどのようなイベントがあるか等)、②競合のホテルの最新価格や、値上がり・値下げの状況に加え、③予約のペースにまで及ぶ。どのくらいの早さで予約が埋まっているかによっても、適切な料金は変わってくる。初めに述べたように、ホテル業界全体で利用客は増え続けているが、慢性的な人手不足が深刻である。現在、働いている人の労働力をより必要な仕事に配分できるという意味でも、MagicPriceの需要は大きい。
ホテル×スタートアップは好相性
そもそも、松村氏がホテル業界に向けたサービスを開発しようと思ったきっかけはなんだったのだろうか。
「料金決定×テクノロジーという着想をいちばん活かせる業界が、ホテルだったんです。料金設定の分野に明らかな課題があったというのに加え、私たちスタートアップだからこそ価値提供できる分野でした」
ホテル業界ではほとんど全ての職種で人手不足が深刻と言えるが、特にマーケティングの専門的な知識を有し、実務に活用することができるプロフェッショナルな人材は全く足りていない。もちろん、知識や実務経験ともに十分な担当者がマーケティング業務に従事している場合もある。しかし、業務量が1人のみに集中しすぎていたり、他の人への引き継ぎもスムーズに行えていないことが多い。さらに、訪問客数は増加傾向にあるが、日々、ホテルを訪れる訪問客の対応に追われ、マーケティングや経営戦略といった長期的な視点が必要な業務になかなか手がまわらなくなってしまうのだ。その部分を補完する手段として、MagicPriceは非常に効果的と言える。
また、時期によって柔軟に料金が変動するホテル業界では、意思決定の早さが非常に重要だ。航空など他の業界に比べ、担当者が「とりあえず使ってみる」選択ができるという点で、フットワークの軽いスタートアップと相性が良い。実際にMagicPriceを取り入れた利用者からは、「料金設定にかかっていた時間が今までの10分の1になった」、「操作が非常にシンプルで、今までこのようなwebサービスを利用したことがなくても使いこなせた」といった声があがっている。
2020年、東京オリンピック。未知のデータに挑む
ホテル業界の料金設定をテクノロジーの力で最適化するMagicPrice。来る2020年には東京オリンピックが開催されるが、業界にはどのような影響があるのだろうか。
「私は、1、2ヶ月程度のイベントでは国全体の経済に大きな変化は起きないと考えています。でも、我々ITスタートアップとしてはすごくワクワクするイベントですね。2020年の東京オリンピックを経験したことのある人は誰もいないわけですよ。だから、それこそ人間が市場動向を読み取るのはますます難しくなるでしょう。完全に未知の世界で、MagicPriceによって何のデータをどう読み解けばいいのか。難しい分、最高に面白い問題だと思います」
2020年に向けて、MagicPriceとホテル番付によりいっそう磨きをかけていくと言う松村氏。さらに、数年後にとどまらずその先の未来を見据えて挑戦を続け、テクノロジーによる料金設定が当たり前になる世界を目指すプロダクトの今後に注目したい。