カッコよさも、戦略だ。日本発・最先端AIディフューザーが、膠着した香り業界に革命を起こす!

真っ黒な艶消しのボディに並ぶ四つのガラス筒、その下部に光る銅色の金属部品。スタイリッシュながら滑らかさもあるデザインは一目見ただけで思わず「かっこいい」と興味をそそられてしまう。美しく、洗練された姿のプロダクトが提供するのは、今までにない「香り」の体験だ。Scentee Macina(センティ マキナ)は、人工知能でユーザーの香り環境を最適化するAIディフューザーである。

「アナログな香り業界を進化させる」世界で多数の受賞実績をもつ香りのスタートアップ

Scentee Macinaでは、専用アプリ内で本体の操作から香りリキッドの残量表示、リキッドの購入までを完結。4種類のリキッドを装填できる「Quattro」モデル(上記画像)では気分によって香りを切り替えられる上、クラウドに搭載されたAIが好みと状況に応じて最適な香りをレコメンドしてくれる。スマートスピーカーでBGMを操作するように、手のひらから簡単に空間の香りをコントロールすることができるのだ。

「香り業界は香水周辺だけでも数兆円規模の大きな市場ですが、いまだにアナログな商品が支配的です。そこで、デザイン性や機能美、科学的合理性を追求したプロダクトを作りたいと開発したのが『Scentee Macina』です」

こう語るのは、Scentee Macinaの開発元であるScentee株式会社の代表取締役社長、坪内 弘毅氏だ。

ディフューザーの場合、主流な商品にはリード式(香りの着いた液体に細い棒を数本差し、香りを散布する)のものと、機械式(超音波やフィルターを用いてアロマオイルを散布する)のものがある。しかし、それらはどちらもアナログでスマートさには欠けるものだった、と坪内氏は述べる。

「リード式は常に香りが出続けていてコントロールできず非効率的ですし、機械式も操作自体は手動で機器のクリーニングにも手間がかかります。デザイン面でも洗練されていないものが多く、元々ディフューザーに親しみの薄い男性ユーザーにとっては使いにくい商品ばかりでした。Scentee Macinaではデザイン性にも優れたプロダクトに仕上げるため数多くのプロトタイプを製作しブラッシュアップしていきました。『Quattro』モデルは99番目のデザインで、搭載リキッドが一種類の『Uno』モデルは100番目のデザインにあたります。個人の家庭のみならず、オフィスや会議室にあっても違和感のないものを目指しました」

搭載リキッドが1種類のUnoモデル。Quattroモデルより場所を取らない小さなボディで、机上など狭いスペースでの活用を想定している。【同社提供画像】

従来のデバイスはFan Toolとしては最高、しかし実用性はなかった!?

同社は、かねてからユニークな香りにまつわるプロダクトを数多く生み出してきた「香りのスタートアップ」である。スマホに装着して香りで通知を行うデバイス「Scentee Balloon」は米国のガジェット紹介サイトEngadgetが選ぶ世界の7大ガジェットに2013年入賞。ベーコンの焼ける匂いで目覚められるデバイス「Wake Up & Smell the Bacon(目覚ましベーコン)」は、世界最大級のクリエイティビティアワード「カンヌライオンズ」のモバイル部門で日本企業として初めて銀賞を受賞した。
これらを含め、同社の過去のプロダクトは、スマートフォンに装着して使用するものや身に着けて携帯するものだった。ウェアラブルな香りのデバイスで様々な実績を残してきたScenteeが、置き型ディフューザー製品にもテクノロジーの風を吹かせたのがScentee Macinaなのである。

「Scenteeは、『iPhoneに嗅覚を導入したい』という発想がきっかけで開発されました。iPhoneは言うまでもなく、スティーブ・ジョブズが発明した非常に優れた製品ですが、五感の中で『嗅覚』と『味覚』の刺激は搭載されていなかった。そこを自分たちで補完できたら面白いよね、という思いから、当初はスマートフォンに装着するガジェットを開発していました」

そうして開発されたのが、イヤフォンジャックに装着すると着信通知等に合わせて香りが噴出されるデバイス『Scentee Ballon』である。先述のようにこのプロダクトは世界でも高い評価を受けたが、坪内氏はこれに単に満足したわけではなかった。

Scentee株式会社・社長の坪内 弘毅氏。中国深セン出張から前日に戻り、さらに翌日にまた中国へ戻る前の貴重な時間に取材をさせていただいた。その多忙さがうかがえる

「『Balloon』や『目覚ましベーコン』といった従来のプロダクトは、非常に魅力的な商品で自分自身も大好きな商品です。しかしこれらは、いわばその場を楽しくする「Fun Tool (楽しむためのオモチャ)」であって、残念ながら実用性はない商品でした。会社としても成長するためにも、ビジネスとして成立させていただくためにも、世の中に実際に長く使ってもらえる製品を作らなければならない。そう考え続けた中で、元々『Ballon』のような手元だけの香りのコントロールから、もっと空間全体の香りを扱う方向へ構想を広げ、置き型の『Scentee Macina』の開発に踏み切りました」

進化の乏しい香り業界に攻勢をかけるため、Scentee Macinaには従来のディフューザーにない様々な機能が搭載されている。それらはすべて「空間の香りをスマートに最適化するため」のものであると坪内氏は語る。

「プロダクト開発では、使い方をスマートにしユーザーの面倒や負担を減らすことにこだわっています。リキッドがなくなった頃に届くオートプロキュアメント機能は、単純に買う手間を省いています。AIによるレコメンドも将来的にはユーザーが『今日は気分が上がらないなあ』と言えば音声認識で『じゃあこの香りにしましょう』と勝手に香りを選んでくれるような形にしていく予定です」

「アプリで操作ができるというのも小さな機能に思えるかもしれませんが、我々が見据えているのはオフィスビル全体の香りを包括的にコントロールできるような仕組みを作ることです。例えば会議室にこのデバイスが置いてあって、雰囲気や時間といった状況に合わせた香りを提供する。会議の終了後には──これは開発中のものですが──消臭用のリキッドで次の人のためにクリーンな空間を作っておく。こうした操作をスマートフォンだけで行えるわけです」

オフィスビルでの使用は、すでに複数の企業に対し導入が決定しているという。オフィスビル以外にも公衆トイレのような臭いのきつい場所でオートメーションに消臭を行うビジネスモデルも構想中だ。

「テクノロジーは達成したい目的のためにあって、ユーザーと自然に同居するものであるべきだと考えています。『Scentee Macina』にはAIが搭載されていますが、IoTの部分を特別に強く押し出そうとは考えていません。香りを空間に満遍なく適切な濃度で広げるための流体力学的なテクノロジーや、ユーザーが合理的に面倒なく使えるためのテクノロジーがあったうえで、香りの最適化のために自然とAIが用いられているという形が理想です。デザインにこだわっているのもこのためで『これ、おしゃれだね』『実はすごくハイテクなんだよ』というような会話が生まれることを目指しています」

取材時には、Scentee Macinaの香りリキッドを嗅がせていただいた。試作段階のものを含め、「グレープフルーツ」や「ヒノキ」のような定番の香りから、「赤ワイン」「バタートースト」といった変わり種まで様々な種類がある

本当にいいプロダクトを作ると、世界中にインパクトを残せる

おしゃれでハイテク、かつ革新的なScentee Macina。驚くことに、坪内氏はプロダクトの開発やPR、セールスまでをほとんど1人で行っている。これほどこだわり抜かれたプロダクトを、たった1人で開発し世界中に販売する坪内氏。自社開発の製品以外に受託開発も行っており、3-5 商品程度を同時並行に開発するといったことも少なくないという。

複数のプロダクトを同時進行で、しかもたった1人で全ての領域をカバーする。このような離れ業を可能にする秘訣を伺うと、坪内氏は「僕は目の前の楽しいことに注力しているだけ」と語った。

「受託開発でいうと、クライアントからどんどん持ち込まれて、それに次々応えていっている。自社での開発もやっているため、結果として常に複数個のプロジェクトを回しているという感じです」

坪内氏は、様々な企業からの期待に応え続け、さらに自社開発のプロダクトでも数多くの実績を残している。とりわけ、日本国内のみならず海外に目線を向けた事業展開を行っているのは、高校時代にアメリカで過ごした経験が背景にある。

「アメリカにいた時、アジア人であるということを理由にした多少の差別のようなものがありました。それが悔しくて、見てろよという気持ちになりましたね。それから、これは私見ですが、海外に行くと日本人が活躍しているパターンって本当に少ないんですよ」

そうした思いをもとに徹底的に磨き上げられたプロダクトを発表してきたScenteeは、現在「どこへ行ってもリスペクトしていただいて、世界中で対等にいい仕事をさせてもらっています」という。

「いいプロダクトを持っていると、国境や文化を超越してリスペクトされる。世界で戦って通用するものを作っている、日本人として世界で勝負できている自負はあります。だからこそ海外の企業から特許やIPまで含めて『一緒にやりたい』と声をかけてもらえるんです」

同社の新たなキラー・プロダクトとなるScentee Macinaは、欧米を中心に世界30~40ヵ国で発売予定だ。しかし、坪内氏の言葉は、「それだけでは終わらない」という強い熱意とエネルギーを帯びている。

「やろうと思えば、世の中にある多くのIoT製品を、2ヵ月3ヵ月でプロトタイピングできる自信があります。友人から言われて嬉しかったのは、僕は今『一人マッキンゼー』みたいなところまできていると。企画から開発から製造から戦略まで全部パッケージしてやり切れる。それが今の僕個人の大きな強みですね」

取材場所はScenteeのオフィスも入居する西麻布のビルにある会員制ワインバー。地下のスペースには、赤ワインをイメージしたリキッドの芳香が漂っていた。

製品にまつわるほとんど全ての事柄を一手に担う坪内氏。彼の強みはすなわち、Scenteeという企業の強みでもあるだろう。圧倒的な行動力と確かな技術を兼ね備えたScenteeは、膠着した香り業界の大きな「進化」の担い手になるはずだ。

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