IoTでつなぐ新しい二世帯住宅の実現、テクノロジーで高齢者に優しいプロダクトを

高齢者“でも”使えるプロダクトではなく、高齢者“が”使える、高齢者の“ための”プロダクト「まごチャンネル」を開発した株式会社チカク。「シニアファースト」を掲げる同社だが、本当に高齢者にとって使いやすいプロダクトとは。その開発の裏側に迫る。

おじいちゃんおばあちゃん家のテレビに孫専用のチャンネルを

「まごチャンネル」は両親が撮った動画や写真のデータをスマートフォンのアプリから送り、離れて暮らすおじいちゃんおばあちゃんの自宅テレビに「孫」が映る専用チャンネルとして、その写真や動画を楽しむことができるプロダクトだ。しかし、動画や写真を送るにはインターネット環境は必要不可欠となる。

共同創業者で工学博士号を持つ佐藤未知氏は、「当社調べですが、そもそもおじいちゃんおばあちゃんの家にインターネット環境があるという比率は全体の2割ぐらい、そのうちWi-Fi環境があっても使われていないという家がほとんどでした」

共同創業者の佐藤未知氏。工学博士号を持つHCI、触覚、VRの研究者。パリ第6大学に研究留学、日本学術振興会特別研究員、シンガポールのベンチャー企業などを経て、2015年よりチカクに参画

まごチャンネルでは、このインターネット環境の問題に対し、SIMを差し込むことで解決した。おじいちゃんおばあちゃんの家に届いたまごチャンネルは、テレビとHDMIで繋げて、電源をコンセントに差し込むだけですぐに使える。新着の動画、写真があれば窓が光って知らせ、操作はテレビ付属のリモコンで動かすことができる。

スマートフォンから動画が送信されるとクラウド上で画質や音声、音量などがテレビ用に自動で最適化されて届けられる。また、おじいちゃんおばあちゃんが写真や動画を見れば、その「見た」という情報は、送信者のスマートフォンに通知される仕組みだ。

共同経営者でソフト開発責任者の桑田健太氏は、「動画の音は、車や飛行機といった環境音のボリュームを下げて、声のボリュームを上げるように設定しており、また動画によって音量の大きさがバラバラになってしまうこともないように自動で最適化されます。動画ごとにいちいち音量を調整する必要はありません」

また、まごチャンネル本体はカスタマイズされたアンドロイドをベースに稼働しているという。

「アンドロイドはリッチなUIを集めやすく、アンドロイドを使った開発ノウハウも一般的に広がっています。そのため、省コストで開発を進められるという利点があります」(桑田氏)

共同創業者、ソフト開発責任者の桑田健太氏。Sansan株式会社にて100万DLの名刺管理アプリ「Eight」のAndroidアプリ開発を担当。組み込み系からアプリレイヤーまでこなすエンジニア。2015年よりチカクに参画。

まごチャンネルには、ハートマークという「お気に入り」機能が付いている。ハートワークが押された場合、その情報が両親のスマートフォンに通知されて、おじいちゃんおばあちゃんがどういう動画や写真を気に入っているのか、わかるようになっている。

「こういった通知機能があれば、写真、動画を送る方のモチベーションの維持・向上にもつながり、リアクションがあることで、飽きずに送り続けていただけるのではと思っています。また、動画が簡単に送れて、おじいちゃんおばあちゃんに見てもらえるというところが、好評いただいています」(佐藤氏)

高齢者向けのUI最適化とは

スマートフォンやパソコンといったものとテレビとでは、共通言語としての乖離があると佐藤氏は話す。

「例えば映像を送る手段として、パソコンとかではHDMIを使いますよね。これは差し込み口に上下があります。昔ながらのテレビとビデオデッキをつなぐ赤、黄色、白の色が着いたビデオケーブルには上下がなく、それぞれテレビ側とビデオ側の同じ色の穴に同じ色のケーブルを差し込むだけでつながります。色で導くことでテレビ側とビデオ側との接続間違いを防いでいるんです。また差し込み口の穴の口径も広いため、おじいちゃんおばあちゃんにも優しいUIだったと思います。まごチャンネルでは、何度もおじいちゃんおばあちゃん達にモニターとして使ってもらって、多くの方に使ってもらえるものをと、試行錯誤しながら開発を進めました。観察しなければわからなかったということがたくさんありました。取扱説明書についても同様に何度もモニタリングを行って、皆さんに理解してもらえるものができたと思っています」(佐藤氏)

まごチャンネル本体。新しい画像などが届くと窓が光って知らせる【同社提供画像】
高齢者へのモニタリングを繰り返し、作られた取扱説明書。余分なものを省き、必要な情報だけを見開きで大きく表示している

テレビ画面での操作では、動画の再生や写真アルバムの展開にはテレビリモコンの「決定ボタン」を押す必要があるが、アニメーションなどを大きく使って画面操作のサポートをしている。

「60代でも80代でも、機械操作に慣れている方でも慣れていない方でも、写真が見られる、動画が見られるという、まごチャンネルのコアな機能は全員が絶対に使えるものでなければならない、そういうテーマを持って開発を進めてきました」(桑田氏)

デジタルでつなぐ新しい二世帯住宅の姿

「当社代表の梶原は淡路島の出身で、東京にいるとおじいちゃんおばあちゃんに孫を会わせてあげることがなかなかできない。どうしたらいいかと考えた結果、テレビを遠隔操作して写真などを送る方法を思いつき、送っていたそうです。他の人も同じことを感じているのではないか、どうにかもっと簡単に送れる方法はないかと考えたのが、まごチャンネルが生まれることになったきっかけです」(佐藤氏)

二世帯住宅で孫と一緒に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんであれば、日々の孫の成長を見ることができる。しかし、子供の成長は早いので離れて暮らしていれば、この前までハイハイだった赤ちゃんが今日、会ったら歩いていたというような、その途中経過を見れずに過程のエピソードはまるっと飛ばされてしまう。その課題解決としてIoTの技術を活用し、離れていてもできる「二世帯住宅の実現」というコンセプトがまごチャンネルの背景にある。それを実現させるためには、おじいちゃんおばあちゃんに継続して使ってもらえるプロダクトでなければならない。

「『高齢者でも使える』と謳ったプロダクトは世の中にたくさんありますが、若い世代が使っているものを、例えば文字を大きくする、画面を大きくするなど、元々あるものをカスタマイズしたレベルの『高齢者“でも”使える』プロダクトが多いのではないかと思います。我々は『高齢者“が”使える』、『高齢者の“ための”』設計・開発を行ってきました。これが我々の企業理念である『シニアファースト』のプロダクトとして、あるべき姿だと思います」(佐藤氏)

写真中央が共同創業者兼代表取締役の梶原健司氏。アップルジャパンに新卒で入社し、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当。2014年にチカクを創業
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