グリコと学ぶ「食+AI」コンペティション+ビジネスコンテスト3Days -2021 Summer- 最優秀賞 中島大介さん 東京大学大学院 情報理工学研究科 修士1年

近年データ活用部門の人員を増強し、さらなるAI活用に向けて注力を続けている江崎グリコ株式会社。同社が主催する「グリコと学ぶ「食+AI 」コンペティション+ビジネスコンテスト3Days」が2021年9月10日(金)、9月17日(金)、9月24日(金)の3日間にわたり開催された。

本イベントは、商品需要を予測する機械学習モデルの精度を競う技術的な側面と、テーマに沿ってAIの活用アイデアを考えるビジネスアイデア的な側面の両方から、「おいしさと健康のためにAIができること」を考えるプログラムだ。

江崎グリコ株式会社は1922年の創業以来、事業活動を通じて世界中の人々に「おいしさと健康」を届ける総合食品メーカーだ。当時革新的だった「お菓子で健康をサポートする」という予防医学の視点からはじまり「おもちゃ付きお菓子」や「商品の無人販売」といった施策を他社に先駆けて行った企業でもあり、「健康の価値を社会に提供し貢献する」という創業の精神とともに、そのチャレンジ精神は今も受け継がれている。

現在は、基礎研究部門・商品開発部門・マーケティング部門・SCM部門・販売部門をはじめとしたさまざまな部門から、AIへの期待が高まっている。

プログラムは3日間であるが、Day1からDay3の間は2週間あり、参加者はその期間に与えられた課題に基づいて、各自でコンペティションやコンテストの準備を行った。また、Day2には同社の理念や事業、組織をより深く学ぶためのセッションが行われた。培った技術をコンペティションで発揮するだけではなく、ビジネスコンテストでは現役社員から直接企業目線のアドバイスや評価を受けられるなど、多方面で大きく成長できるプログラムだった。

学生たちは「AI時代のおいしさと健康」を通して、食品業界のトップランナー・グリコの未開拓の分野でAIを活用するための技術力に加え「どうすれば消費者にとってよりメリットがあるか」「次の時代で当たり前に使われるほど、世の中に役に立つか」などの視点に触れ、自分自身の今後の活躍の可能性を考える3日間となった。

最優秀賞受賞者:
東京大学大学院 情報理工学研究科 修士1年 中島大介さん
大学院では 知能機械情報学を専攻する。 

「イベントの印象は?」「好成績につながったポイントとは?」お話を伺った。

―イベントに参加してみていかがでしたか?

イベントへ参加したきっかけは、グリコのインターンの紹介ページを偶然見つけ「面白そうだな」と感じたことでした。AIのコンペティションは他にもたくさんありますが、コンペティション部門とビジネス部門が2つあるのは特徴的で、私にとって魅力的でした。

これまで参加したいくつかのコンペティションを振り返ると、Kaggle(カグル)はチームを組む形式でしたが、その他の企業が主催するコンペティションなどでは、基本的には周りが競い合う相手、つまりライバルであることが多かったです。

それらに対し、今回は初対面の学生とチームを組むアライアンス制が採用されていました。

最終的には、競い合う相手になるのですが、途中で相談できる仲間がいるのは心強かったです。チームメイトと話し合ったことが最終成績にも活きたと感じています。

チームメイトは本当にフレンドリーな方が多く、1日目からメンターの方に「活発なチームだね!」と言われるくらいでした。そのチーム力(活発さ)は、最終日まで続いた印象があります。

―まず、コンペティションについてお伺いします。好成績を修めましたが、どのような工夫をしましたか? 苦労した点や、もっと伸ばせたと思うところはありますか? 

本番に挑む前に色々と調べていくつかのモデルを用意していましたが、実際には何度も失敗しました。毎回「何で駄目なのだろう」と考え、都度立ち戻りながら進めました。

最終的には、チームでアイデアを出し合ったモデルの精度がよく、そこに自分なりの工夫(特徴量の入れ方など)をすることで、好成績につなげることができたと見ています。

コンペティションのテーマは「チルド商品における需要予測」でした。

外れ値のデータが点在しており、そのうちの1つである祝日を入れたものの、拾いきれませんでした。コロナ禍による需要の影響など、新しい特徴量をもう少し自分なりに工夫できると、もっとスコアを伸ばせたかかもしれません。

また、気温の特徴量を考えるときに、私は平均をとり、気温の代表値を使いましたが、他の発表者は人口の多いところをとっていました。ここはもっと工夫できたかもしれません。

―ビジネスコンテストについてお伺いします。こちらの部門でも非常に高い評価を受けておられましたが、アイデアの源泉や工夫したポイントについて、お聞かせください。 

ビジネスコンテストは「『グリコ』×『AI』×『社会課題』という観点で、グリコだからこそできる、グリコが行うべきAI時代のサービスを考案する」というテーマでした。

そこで私は「テレワークによる社会人の孤立」を社会課題に設定し、それを解決するためのアイデアを提案しました。

テレワークになると、お互いが見えにくくなり、コミュニケーションがとりづらくなります。そこで、チャットアプリを活用することで、ちょっとした仕事の「ありがとう」や「いいね」を”お菓子ポイント”として社員同士で贈ることができるようにするというアイデアです。

アイデアのポイントは「お互いがウィンウィン(win-win)になる循環が起こるような仕組み」にあります。つまり、ビジネスシーンでの「ありがとう」を”お菓子ポイント”によって可視化することで、テレワークにおける社員の孤立を改善するというものです。

アイデアの源泉は、自分自身が「コロナ禍のコミュニケーション」を課題に抱えていたところにあります。学生の場合は”お菓子ポイント”を自分の家計から支払うことになり、導入は現実的ではありません。しかし、社会人の場合は企業の予算で導入するにより課題解決につながると考えました。

実は類似サービスがグリコの中にありました。しかしその類似サービスは”お菓子”ではなく”お金”でした。今回のアイデアで、私がこだわったのは”お菓子ポイント”、つまり最終的に、ポイントがお菓子に交換できるところです。理由は、モノやお金だと「気軽に贈って、気軽に受け取る」ということが難しいと考えたからです。

このように、自らの経験をもとに「ビジネスモデルとして成立させるには?」という視点で、当初のアイデアにどんどん修正を加えていきました。

参加する前の感覚としては、コンペティションのほうに自信がありましたが、結果的には総合で優勝することができました。

―これまでの経験が活かせたシーンについて、お聞かせください。また、今回のイベントで学びにつながった点があれば教えてください。

普段の研究活動においても、1つのアイデアでうまくいくわけではありません。うまくいかない時「調べて新しい手法を探す」という進め方は、コンペティションと共通しています。

ビジネスコンテストは、ほとんど経験のない挑戦でした。

まず「どのようなアイデアが評価されるのか?」全くわからない中で、手探りで進めるしかありません。準備としては、他の企業コンペの提案書類を見たりしていました。

「事前に調べる」という部分では、コンペティションと共通しています。

さらに、ビジネスアイデアのストーリーを創り上げていく段階で、アイデアをどんどん変えていく工程も、研究活動と似ているかもしれません。

研究活動は1人で考え込むことが多い中、教授や先輩と話し合うことで、見えてくることもあります。今回のイベントでも「人と話すことで得る知見」がありました。Day1とDay3の間の準備期間にチームメイトと勉強会を開くなど、このイベントならではの学びがあったと思います。

―主催企業やメンターへの印象について、率直な感想を教えてください。

これまでは、グリコ=ITの印象を持っていませんでしたが、説明会でIT部門があることを知りイメージが変わりました。実際に参加したことで「グリコが新しいことに挑戦していこうとしている姿」が見え、魅力的に感じました。

チームで話し合いをしているときには、メンターの方が様子を見に来てくださいました。

中でも印象的だったのは、ランチを食べながら「スペシャリストになるか? ジェネラリストになるか?」といったお話をメンターの方から聞く機会があったことです。とても熱い想いを持った方で、就活の参考にもなりました。

―今後、どのようなチャレンジをしていきたいですか?

大学院では知能機械情報学を専攻しており、AIに関する研究活動を行う研究室に所属しています。普段は画像データを扱うことが多いのですが、自然言語にも興味があります。

今回のコンペティションでは、普段はあまり触らないテーブルデータに触れることができました。今後は自然言語や音声など、様々なデータを触りながら機械学習まわりについて学びを深めたいと考えています。

将来的には様々なプロジェクトをまわしていきたいと考えていますが、まずはエンジニアからスタートする可能性が高いと見ています。スペシャリストになるにも、ジェネラリストになるも知識は必要です。キャリアアップしていく中で、あらゆることに挑戦を続け成長していけたらと思っています。

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