あのグリコがAIハッカソンを開催! コーディングからビジネスまで網羅する3Daysハッカソン

「おいしさと健康」の企業理念で食品業界をリードする江崎グリコ株式会社が、初の学生向けAIハッカソンを開催しました。2019年11月16日・11月29日・30日の3日間で、江崎グリコ株式会社大阪梅田オフィス(1日目・3日目)および江崎グリコ株式会社本社(2日目)にて実施。3日とその間の2週間を使って、ビジネス課題とコーディング課題の両方にチャレンジする幅広い内容でした。24名の学生さんたちが協力し合いながら多様な成果をあげたイベントの様子をお届けします。

課題内容

イベントは課題説明等を行なった1日目・中2週間の準備期間・江崎グリコ株式会社の記念館見学などを実施した2日目・最終発表の3日目と長期にわたって開催されました。ハッカソンとビジネスコンテストの二部構成で、多様なスキルが求められる充実した内容でした。

ハッカソンでは江崎グリコ株式会社から提供されたクローズドデータを用いて特定の商品の需要予測を行いました。売上に関する複数の数値から直近数ヶ月分の売上を予測する回帰タスクです(データの詳細は非公開)。1日目に練習用データが配布されますが、最終的な評価は3日目に配布される練習とは異なる商品データでの予測結果を用いて行われます。評価はモデル精度(RMSE)をランキング形式で掲示し順位に応じて加点を行なったほか、分析手法についての解説を口頭で発表していただき、その内容も評価の対象となりました。

ビジネスコンテストでは、「2020年江崎グリコに新設されたAI部門の新入社員として、AIを用いた企画を新たに提案する」という課題を設定。企画内容とその実現方法を自由に考え、プレゼンテーションを行なっていただきました。

また、本イベントの特徴として「アライアンス制」を採用していました。Peakers側で数名ひと組のアライアンス=同盟を設定し、そのメンバーで初日のディスカッションや準備期間中の相談を行う方式です。最終的な評価は個人に対して行われますが、アライアンス内でたくさん相談に乗ってくれた・活発に発言してくれたなど貢献度の高かった人を最終日に挙げていただき、名前が挙がった方は最終評価に一定上限のもと加点されました。

ハッカソン・ビジネスコンテスト・アライアンスそれぞれの得点を合計し、総合一位が決定されます。その他各部門のMVPや各メンターさんの賞なども用意されていました。

1日目の様子

江崎グリコ株式会社からは、経営企画部デジタル化推進チーム長を務め同社のデジタル技術部門を牽引する上田 徹さんや同部の川本 佳希さん・藤本 由香子さんが技術メンター、人事部の田中 弓雄さんがビジネスメンターとして参加いただきました。また、PeakersからもPythonのコーディングに関する質問に答えるデータサイエンティストが1名参加しました。

2週間以上をかけて2つの大きな課題に挑戦する本イベント。1日目は課題・データの解説や練習課題への取り組み、ディスカッションなど準備期間のためのインプットが多数行われました。2日目は記念館見学やビデオ視聴などのレクリエーションが実施され、最終日は2時間ほどのコーディングと最終プレゼンテーション時間のみとなるため、資料の準備やモデル構築は中2週間の間に行う必要があります。皆さん貴重なインプット時間を有意義なものにしようと解説に熱心に耳を傾け、ディスカッションも大変活発でした。

まずは田中さん及び上田さんより課題背景や江崎グリコの歴史・商品開発の例、データ内容などについて解説が行われました。元々薬の卸売業を行なっていた同社の創業者・江崎利一さんが息子の病気を通して「病気にかかった人に薬を提供することが最も社会貢献できる方法だと考えていたが、必要な栄養をお菓子として提供すればそもそも病気にかからない予防医学が実現できるのではないか」という発想に至ったストーリーは特に多くの方の印象に残ったようです。事後アンケートでも江崎利一さんについて「マーケティングの神だと思った」などのコメントがありました。

1日目の前半はハッカソンの練習課題に取り組みます。最終日とは異なる商品のデータでモデルを構築し、予測結果の提出を行いました。実はこちらの練習課題には最終日に配布されるデータと同じ傾向を持つ商品が一部含まれており、練習課題に十分取り組んだ人ほど最終日の成果が出やすくなるように設定されていました。特にディスカッションの時間は設けていませんでしたが、ハッカソンパートの時点からアライアンス内での交流が活発で、Slackのチーム内チャンネルで基礎集計の結果や特定モデルでの予測結果を共有しているアライアンスもありました。

ハッカソンの練習課題に取り組むみなさん

後半ではビジネスコンテストでの企画立案に向けたインプットとディスカッションを行います。開始時、メンターの上田さんが企画立案する際の考え方を提示。「思い切り空振りをしてもいいから、保守的にヒットを狙うのではなくホームランを目指して何度も打席に立ってほしい」というお話があり、長い歴史がある中で数々のユニークな人気商品を生み出してきた江崎グリコ社のチャレンジングな姿勢が強く現れていると感じました。

「ホームランを狙おう」と話すメンター上田さん

ディスカッションでは積極的に発言が行われ非常に賑やかでした。イベントの間、机上には常に様々な種類のグリコのお菓子が配られていました。そのお菓子を片手に食品業界でのAI活用について真剣に考えていきます。先ほどの上田さんのお話を元に、メモやディスプレイにはたくさんのユニークなアイデアが連なっていました。また、ディスカッション中はメンター田中さんとPeakersのデータサイエンティストが各テーブルを順番にまわり質問を受け付けました。

グリコのお菓子を味わいながら、真剣にアイデアを出し合います

あっという間に1日目が終了し、解散へ。この1日で親睦を深めた方々はその後メンバーで食事(たこやき!?)に行ったり、連絡先を交換したりされていたようです。

準備期間中は、江崎グリコ社のメンター陣への質問をSlackにて受け付けていました。アライアンス内での情報交換も含め、参加者のみなさんがそれぞれしっかりと準備に取り組んでいる様子が伺えました。

2・3日目〜最終発表

2日目は大阪市内の歌島にある江崎記念館の見学と、江崎グリコ株式会社本社でのレクリエーションが実施されました。2日目には残念ながらPeakersの運営チームは参加していませんでしたが、学生さんからは「江崎記念館に過去のグリコのおもちゃがずらっと並んでいるコーナーがあって凄かった」「レクリエーションで商品開発の現場に密着したドキュメンタリーを見たが、商品開発にかける思いがとても強く、熱い人たちがたくさんいる企業だなと感じた」などの感想があり、とても好評だったようです。

そしていよいよ3日目。この2週間の成果を出す時です。先述の通り3日目の作業時間は短いため、みなさんこの日に向けて十分準備して臨んでいました。

ハッカソンでは2つの商品データが新たに配布されモデルの調整と予測結果の提出を行います。データ形式が一部練習課題と異なっていた部分もあったため、どなたも非常に急いで調整をされていました。結果、商品Aでは上位でも商品Bではそれなり・またはその逆、といった方が多く、練習課題にどう最適化していたかで各商品の順位が入れ替わっているように見受けられました。商品ごとに特性が異なるのでどちらでも精度を出すモデルを作るのはかなり難しい、といった声もありました。

続いて、分析プロセスについての口頭発表を行いました。商品は2種類ありましたが、時間の関係上発表は2種類についてのみ行なっていただきました。特に興味深い・工夫されていて好評価を受けた数名の方の発表内容を紹介します。

前蔵 遼さん(大阪大学基礎工学部)

まずは、与えられた2商品のデータを相関分析。ひとつの商品は全体的に相関が高く線形な特徴量が多い、もうひとつの商品は全体的に相関が低く非線形な特徴量が多いことを図示しました。その上でモデルは線形回帰・ラッソ回帰・SVM、Random Forestの4つをクロスバリデーションさせながら作成。それぞれの予測結果をスタッキングしたものを提出しました。

前蔵 遼さん

西尾 康佑さん(立命館大学大学院情報理工学研究科)

LightGBMとSARIMAを組み合わせたモデル。データに周期性と季節性が確認できたため、季節性のある時系列データの予測に有効なSARIMAモデルを採用しました。SARIMAモデルの予測結果を、LightGBMの説明変数として利用。ほか、年月日をsin,cos変換し時系列データとして認識できるように処理しました。

西尾 康佑さん

大石 悠貴さん(関西学院大学理工学部情報科学科)

多くの方が商品ごとの違いで苦戦する中、大石さんはある商品では2位・もうひとつの商品では4位と好成績を収めました。モデルは重回帰分析・SARIMAモデル・SVR(サポートベクター回帰)・XGBoostの4つを作成。与えられた学習用データのうち2割を開発環境での精度検証に用い、そこでMAEが高かったモデルを選びました。ハイパーパラメータの最適化にはグリッドサーチを利用しましたが、ランダムサーチなど他の最適化ツールを使えばより精度が上がっていたかもしれないとのことでした。

大石 悠貴さん

後半はビジネスコンテストの発表です。2週間の準備で、みなさんどんなアイデアを出してくださったのでしょうか。こちらも一部の方ではありますが、発表内容を紹介します。

三谷 怜司さん(東京大学工学部システム創成学科)

「社内の人間関係を円滑にするお菓子」と題し、離職率を下げるためのお菓子を用いたアプリを企業に導入してもらおうという企画です。三谷さんは退職理由のうち「(職場での)人間関係」が大きな割合を占めることに着目。従業員間で感謝のメッセージとともにお菓子の無料券を送付できるアプリを提案しました。無料券はメッセージの送信者にも渡され、両者で一緒にお菓子を食べにいくことでアプリ上だけでなくリアルな社内コミュニケーションも活発化するねらいがあります。メッセージを受け取った社員のモチベーション向上に繋がるのはもちろん、メッセージ内容を分析したり送受信履歴からクラスター分析で社内の関係性を可視化したりすれば、離職しそうな社員を見つけ事前にサポートが行えるとのことでした。単なるメッセージアプリではなくお菓子を使う理由、導入後の活用イメージなどがわかりやすく整理され、納得感のある発表でした。

三谷 怜司さん

山下 奨平さん(早稲田大学地球・環境資源工学専攻)

お菓子の商品パッケージをAIに作成させるというアイデア。AIを用いることでパッケージ作成が効率化されるとともに、企画段階から商品ビジョンを共有できると述べました。具体的には、AIが過去データから大量のパッケージサンプルを作成し、複数名あるいは全社員がスマートフォンなどの端末上で査定するという流れを想定。AIが作成したものを査定時に初めて目にするためバイアスが少なくなり、多くの社員に査定してもらうことで消費者が手に取った際のイメージに近いデータを集めることができます。山下さんは、パッケージデザインは商品のビジョンを反映したものであると考え、企画段階からデザインを社内で共有すれば、部署を超えた連携にも繋がるとしました。Day2に視聴した商品開発ドキュメンタリーの内容を踏まえ、開発する社員への利点まで考慮されていた点が特徴的でした。

山下 奨平さん

岩田 真奈さん(東京工業大学工学院経営工学系経営工学コース)

プレゼントや好みについてのアンケートから「人は自分の好みに合っていて、かつ自分では選ばないものをもらうと嬉しいのではないか」と推察。Webアンケートに回答すると嗜好のタイプとおすすめのグリコのお菓子がわかり、SNSなどで結果を共有できるサービスを提案しました。開発用データはグリコの会員制サイト「グリコクラブ」で収集すること、グリコクラブのアクティブユーザーがモデル作成に十分な数であることなど実装までの流れを細かく想定した内容でした。また、ユーザーにとっては「周囲の人と食の好みを共有できる」「好みに合うお菓子を新たにもらったり発見したりできる」といったメリット、企業には「消費者の味の好みを分析できる」「今まで購入されなかった商品を手に取ってもらうきっかけになる」といったメリットがあるなど実施の意義も明確だった点が高く評価されました。

岩田 真奈さん

記事では一部のみの記載ですが、こちら以外にもユニークな発表が非常に多く聞いている我々もとてもワクワクしました。1日目のメンター上田さんの説明にあったような、「ホームラン狙い」のアイデアがたくさん生まれたのではないかと思います。

結果発表と総評

本イベントではハッカソン・アイデアコンテスト・アライアンスの合計得点で最終順位が決まります。そのため実施中のリーダーボードである程度順位予想ができるコンペ形式のイベントとは異なり、誰が優勝するか最後までわからない状態でした。また、総合優勝以外にも、各部門での最優秀者及びメンターさんの個人賞・アライアンス制の貢献者として最も名前が上がった方への感謝賞が準備されていました。

全力を出し切った達成感と順位発表を待つ緊張感が漂う中、最終結果の発表です。

総合優勝:岩田 真奈さん(東京工業大学工学院経営工学系)

優勝した岩田さんと、江崎グリコ社グループ人事部の吉原 聖子さん(写真右)

ハッカソン部門:大石 悠貴さん(関西学院大学理工学部情報科学科)

ビジネスコンテスト部門:三谷 怜司さん(東京大学工学部システム創成学科)

感謝賞:田中 一馬さん(東京農工大学工学部化学システム工学科)・木方 泰輔さん(滋賀大学データサイエンス学部)

左:田中さん、右:木方さん

また、各メンター賞は下記の方が受賞されました!

メンター上田さん賞:今福 史智さん(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)

メンター川本さん賞:徳永 一輝さん(滋賀大学データサイエンス学部)

メンター藤本さん賞:高橋 駿一さん(京都大学工学部情報学科)

受賞された皆さん、本当におめでとうございます!

総合優勝の岩田さんには、個別インタビューを実施しています。

ハッカソン・ビジネスコンテストどちらもプレゼンテーション能力が光った岩田さん。プレゼンのコツや、発想のポイントなどをお伺いしています。

グリコと学ぶ食+AI。食品業界に新しい風を起こす3Daysハッカソン+ビジネスコンテスト 最優秀賞 岩田真奈さん インタビュー

併せてぜひご覧ください。

懇親会

イベント後は別会場に移動し懇親会が行われました。

開催中はアライアンス内でのやりとりが主でしたが、懇親会ではアライアンス外の参加者同士やメンターさんともたくさん交流できます。本イベントは関西以外にも名古屋・東京など様々な地域からの参加があったため、学生さん同士ではそれぞれの地域での就職活動状況や大学での講義内容についてお話しされている方が多いようでした。

メンターさんと学生さんとのお話も大変盛んでした。イベント中も優しく丁寧な対応をしてくださっていたメンターさんたちが、さらにフレンドリーな雰囲気に。メンターさんに将来に関する悩みや研究の辛さなどを打ち明けている学生さんの姿もあり、社会人の先輩の目線からアドバイスをいただけていたようです。

Peakers運営チーム含め関西以外からの参加者の方は交通機関の時間制限があり、中座する形となりました。どなたも名残惜しそうに帰っていかれ、我々もできれば最後までいたいと思うほど楽しい懇親会でした。また関西の方々とメンターの川本さん・藤本さんはお店を移動した後も、学生さんたちと盛り上がったそうです。

まとめ

開催日程の中に長期の準備時間を組み込み、また課題も2本立てと新たな取り組みの多かった本イベント。参加者の方々がどんなアウトプットをしてくださるのか、期待はもちろん少し不安もあったのですが、どなたもしっかりと準備に取り組んでいただき非常に素晴らしい成果を出されていました。また、アライアンス制が功を奏し個人戦にも関わらず多くの交流が生まれていたこともとても嬉しく、今後に活かしたいと考えています。

参加者の皆さんの感想で特に目立ったのは、江崎グリコ社に対するイメージの変化でした。「テクノロジーというイメージがなかったが、技術を大事にしている企業だと感じた」「健康にも重きを置いているなど、ただのお菓子メーカーではないなと思った」「これからAIを活用していきたいという勢いを感じた」など、お菓子のグリコとしてその名を知られる同社のより深い部分に触れていただくことができました。

また、同社のメンター・人事の方々がとても優しく丁寧だったというコメントも多くありました。開催中はたくさんのお菓子とともに常に気を配っていただき、参加者のみなさんにより良い体験をしていただけるよう終始ホスピタリティ溢れる対応をしていただいたことが我々としても印象深かったです。

準備期間もあり、イベントそのものも3日間と長期の開催でしたが、その分懇親会でのやりきった雰囲気や盛り上がりは強かったように感じました。多様な分析手法やビジネスアイデアは聞いているだけでも非常に興味深く、参加者のみなさんにとっても多くの実りがあったのではないかと思います。

Peakersでは、今後も様々なハッカソン・MeetUp・インターンシップを開催予定です。ここでしか体験できない学びを手に入れたい学生の皆さん、ご参加をお待ちしております!

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