長時間労働、睡眠不足からの開放。ITを活用した睡眠コーチングで人間本来の時間「体内時計」を取り戻せ

睡眠不足は、がん、糖尿病、血管障害をはじめとした健康リスクを高める以外にも、老化現象、労働生産性の低下など、様々な問題を引き起こす要因になっている。また最近、睡眠と認知症の関係性を唱える学者もいる。睡眠時間の短さを見てみると、世界で日本と韓国がワースト1~2位を争っており、日本では睡眠不足によるによる経済損失はGDPの約3%となる15兆円という研究結果(アメリカ・ランド研究所、2016年11月)も発表されている。

長時間労働や不規則な生活で心身ともに疲弊しきった経験を持つ株式会社O:(オー)の谷本潤哉代表取締役。その心身を癒したのは「時計を持たない無人島生活」で取り戻した体内時計の正常化だった。体内時計を狂わせる現代人の睡眠不足の要因は「仕事にあり」、と断言する谷本氏は、企業向け睡眠コーチング/分析支援サービス『O:SLEEP』を開発。ITで探る最適な睡眠とは。

睡眠不足は仕事に起因する!?

「以前、毎晩遅くまで残業し、帰宅時間も遅かったことから睡眠があまり取れない生活を続けていました。睡眠不足で勤務をしていても日中、ボ~として仕事は進まず、それでまた残業して、というサイクルを繰り返していました。これでは高い生産性は維持できません」と谷本氏は話す。

谷本氏は広告代理店でコピーライター/デジタル・プランナーとして従事していたが、海外で体験した「時計を持たない1週間の無人島生活」でこれまでにない解放感を感じた。睡眠不足や不規則な生活で狂った「体内時計」が正常に戻ったことで体調が回復。その経験から体内時計に興味を持った。

株式会社O:の谷本氏。睡眠医学の進歩は他分野と比べて遅れており、なぜ夢を見るのかもよくわかっていないと話す

「人間が持つ本来の時間『体内時計』の正常化、これは現代を生きる多くの人が求めていることなのではないか、そう感じたんです」

日本人の体内時計は、1日およそ24時間10分に設定されている。この時間よりサイクルが短い人は朝型、長い人は夜型になりやすいと言われる。夜型に分類される人は1日のリズムが長くなるので、朝起きるのがつらいと感じるそうだ。

また、体内時計を狂わす睡眠不足はうつ病や不眠症などを引き起こす要因のひとつ。それらを発症した従業員は休職や離職をせざる負えない状況に追い込まれることもある。しかしこれまで、企業側が従業員の睡眠の状態を把握し、うつ病や不眠症などを発症する前に睡眠不足への対応策を講じることは難しかった。

「今まで会社が従業員の睡眠データを把握するということはほぼありませんでした。しかし、現代人の睡眠不足は『仕事』に関わる要因が多いので、企業に働きかけていくことが重要だと私は考えています。『企業が健康をつくる』、そういった社会の実現を目指して、企業向け睡眠コーチング/分析支援サービス『O:SLEEP』の開発を始めました。O:SLEEPでは本人が自覚し申告するより前に睡眠のデータからパフォーマンスの低下、メンタルの不調といった事象を汲み取ることができます。こういったデータを企業側に提供できれば、生産性の低下、うつ病や不眠症などの発症による休職や離職の対策につなげていくことができます」

O:SLEEPは睡眠状況の記録・可視化および睡眠衛生学に基づいたコーチングを行うプロダクト。日本睡眠学会の精神科医が監修を行っている。取得したデータは同時に企業の人事や従業員マネジメント部門に対し、従業員の所属する組織や集団別の睡眠状況や生産性(プレゼンティーズム)の状況などを可視化することで、従業員の健康管理や業務改革・組織改善などに活用できるサービスだ。

「会社内での人間関係や業務内容の影響で、睡眠の質が悪化している場合もあります。O:独自のアンケートをアプリ内で実施し、その内容とアプリでの取得情報に基づいて現場マネージャーに現状の問題点・改善方法を具体的にアドバイスします。そして、その改善施策をマネージャーが実施しているか、随時確認することで結果的に個人の睡眠や組織の改善につなげることができます」

O:SLEEPは、睡眠情報に出退勤・健康データを組み合わせて高度な分析も可能だ。現在、谷本氏は個人個人の体内時計に合わせて勤務時間を設定できる方法がないか、模索中だと話した。

O:SLEEPのプロダクトイメージ【同社提供画像】

“睡眠前の飲酒”、“休日の寝だめ”は間違い!

「『睡眠衛生学』という言葉をご存知でしょうか。睡眠の基礎知識とも言えるものです。この基礎知識を少しでも理解していただければ、睡眠に対する向き合い方も変わってくるのではないでしょうか」

「よく寝つきを良くするため睡眠前にアルコールを摂取する人がいます。確かに寝つきは良くなるかもしれませんが、睡眠の質という観点からは寝る前の飲酒はお勧めできません。最初はコップ1杯で寝ることができても、そのうち2杯、3杯と増え、そのうち『お酒がないと寝れない』というアルコール依存が起こる場合もあります。また、睡眠は深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)を交互に繰り返すのですが、アルコールが体内に入るとそれを分解しようと身体の活動が活発になるため、眠りは浅くなります。深い眠り=質の良い睡眠というわけではなく、バランスよく深い眠りと浅い眠りを繰り返すが大切なのです」

また平日の睡眠不足は、週末に寝だめすれば大丈夫!そう思われている方も多いかもしれない。しかし、不足した睡眠はそう簡単に取り戻せるものではなく、毎日、良質な睡眠を取ることが重要だ。

「特に平日は朝しっかり起きられるけど、休日はお昼過ぎまで寝ているなど、平日と休日の起床時間が1時間半を越えるようでしたら要注意です。この差が大きくなればなるほど、時差ボケを引き起こし身体に悪影響を与えることになります。必要な睡眠時間については、個人差があり確実なことは言えないのですが、ひとつの目安として毎日6時間以上をキープすることが大切だと言われています。6時間未満×10日間では脳内が徹夜した場合と同じ認知能力になっていたという研究結果もあります」

「早寝早起き」ではなく、「早起き早寝」なら実践できる。寝よう寝ようと思うと余計に眠れなくなることもあるが、起きる時間は自分で設定できるから、と教えてくれた。

現在、成人の5人に1人、日本国内だけでも約2000万人が睡眠に何らかの問題を抱えており、そのうち睡眠導入剤の服用者は500万人とも言われている。夜間のシフトで働く人は不眠症になりやすく、特にドライバーであれば睡眠薬の処方は難しいものがある。また、睡眠導入剤の依存性や副作用に対する不安感は服用者に根強くあり、睡眠導入剤とは異なる副作用がない療法への期待が高まっている。O:SLEEPはそういった期待に応えてくれるプロダクトなのかもしれない。

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