大好評につき今年も開催! グリコと学ぶ「食+AI 」コンペティション+ビジネスコンテスト3Days 2021年度開催レポート
2021年9月、グリコのハッカソンイベントが行われました。新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、今回はオンライン開催となりましたが、17名の学生の皆さんに参加いただきました。
3年前から始まった本イベントも、大好評につき今回で早くも3回目。今回は下記3日間構成での熱い取り組みがなされました。
9/10(1日目) AIハッカソン+ビジネスコンテスト 課題発表・グループワーク
9/17(2日目) ビデオオリエンテーション
9/24(3日目) AIハッカソン+ビジネスコンテスト 成果発表
初日にハッカソン・ビジネスコンテスト両課題へアライアンス単位で取り組み、2週間の準備期間ののち、最終日に発表の場が設けられる構成です。準備期間の2週間の中1日は、グリコについて学ぶビデオオリエンテーションが行われました。
創業以来、常に時流に合わせたヒット商品を世に送り出し続け、“おいしさと健康”の企業理念のもと、今もなお食品業界をけん引し続けるグリコ。そんなグリコと学ぶ「食とAI」、学生の皆さんがどのような知恵を絞り、議論をし、成果を上げたのか。知識とアイデアが凝縮された3Daysの模様をお届けします。
課題内容・競技方法
課題①:AIハッカソン
グリコから提供されたクローズドデータを用いて、特定商品の需要を予測する課題です。
初日に学習用のデータを配布し、2週間の準備期間でモデルを構築、最終日に配布される本番用データにて受注予測を行っていただきました。
評価は、予測精度(RMSE)の順位ごとに設定されたポイント加点に加え、データの特徴や傾向の理解、発送のユニークさなど口頭発表も評価の対象とされました。
本番データは最終日に配布される為、調整の時間は殆どありません。その為、「如何に汎用性の高いモデルが構築できるか」「短時間で当該商品の特徴を掴む為の事前準備が、2週間のうちに出来ていたか」が勝負の分かれ目となる課題です。
課題②:ビジネスコンテスト
『グリコ』×『AI』×『社会課題』という観点で、「グリコだからこそできるグリコが行うべきAI時代の施策」を提案していただきました。
こちらもハッカソン同様、2週間の準備期間中にアイデアの磨き込み、発表資料の準備・作成を行い、最終日に口頭発表いただきました。
ユニークで新規性のあるアイデアか、一定の実現可能性があるか、論理的に道筋を立てた説明ができているかなどの評価指標のもと、予選グループを通過した6名が決勝発表に進み、決勝リーグを争っていただく形式。
参加単位
本イベントでは、チームで知見を出し合いながら、最終成果物は個々人で作成を進める「アライアンス制」を採用。難易度の高い課題2つを前に、2週間という時間は決して長くはありません。
個人の知見と技量・チームワーク、両方をバランスよく発揮することが求められる、ハイレベルな取り組みとなりました。
開催1日目
開催1日目は、開会式および、アライアンス内での課題の読み解き・課題解決の方向性の議論がなされました。
開会式
グリコは、創業者 江崎利一の『食品による国民の体位向上』という強い想いから生まれた、日本はもとより、世界でも知られた食品企業。来年2022年で、記念すべき創業100年を迎えられます。
そんなグリコが本イベントを開催するにあたっての想いを、人事部の田中弓雄さん、経営企画部の上田徹さんが語ってくださいました。
グリコの目指す「おいしさと健康」とは、「おいしいから食べたい」だけではなく、「健康にいいから毎日食べたい/飲みたい」とお客様に思ってもらえ、手に取ってもらえる商品を生み出し、お届けすること。その為に、「お菓子会社」ではなく、「社会ニーズに応える日常必需食品」へと、商品開発の方針を大きく変えようとしているとのことでした。
その具体例の一つとして挙げられたのは、「液体ミルク」の販売。
世間の注目を集め、我々の記憶にも新しい「液体ミルク」ですが、日本では、グリコが初めて販売に取り組みました。これも、「男性の育児参加率向上」という社会問題の解決を目指した提案であったのことで、今回イベントテーマの一部でもある『グリコ』×『社会課題』を体現した取り組みでした。
「事業を通じ社会課題に対しても向き合い、これからも”今の食品業界では考えられないこと”に挑戦していきたい」と、田中さん。今回のイベント背景となる熱い想いの籠ったお話しに、学生の皆さんも終始真剣に耳を傾けていらっしゃいました。
グリコの創業当初の想いは、今の「おいしさと健康」という企業理念に脈々と受け継がれていることを、我々Peakers運営も強く感じさせていただきました。
アライアンスの初顔合わせ、アイスブレイク
今回は、先述したように『アライアンス制』を採用。
2週間を共に戦い抜く仲間が誰になるのか、全員が緊張の中、開会式後にアライアンスを発表、ドキドキの初顔合わせとなりました。
ここからは、2週間の戦いを強力にサポートいただくメンターの皆様にも加わっていただき、各々簡単な自己紹介と、「グリコの商品と言えば?」をお題に少々雑談をしていただきました。
今回メンターとして参加くださるのは、日常業務でAIを活用されている現役社員9名の皆様。普段は中々接することができない凄い皆様ですが、この場だけは特別です。お互いに緊張しながらも、会話が始まります。
「道頓堀にあるゴールインしている人の看板!」「高校にセブンティーンアイスが設置されていました」「SUNAOってカロリー少ないのに、味の種類が色々あって凄いよね」などなど、始まった会話はなかなか途切れません。
参加者全員の誰もが話題に困らない、というのは、普段のイベントでもありそうでない所。こんな所にも「グリコ」の凄さを感じさせていただきながら様子を眺めているうちに、あっという間にアイスブレイク終了です。程よく場の空気が暖まり、連帯感が生まれだした所で、いよいよ課題に突入します・・・!
※本イベントには、3年前のグリコ開催ハッカソンイベントをきっかけに、グリコへ入社された木方泰輔さん、今福史智さんが、メンターとしてご参加くださいました!お二人は、今回のハッカソンのデータ検証、課題説明など、重要な役回りをご担当いただきました。「イベントに参加する側」から「企画する側」に立場を変えて再びのご参加、運営としては少し胸が熱くなるものがありました。
AIハッカソン課題の読み解き(1日目前半)
1日目の前半は、商品需要予測モデル構築のワークに取り組みます。
かつての本イベント参加者である木方さん、今福さんによる課題詳細の説明後、まずは配布された学習用データと課題内容を黙々と確認。膨大なデータのどこから手を付けるべきか、どういった特徴を捉えるべきなのかなど、各々思考と戦略を巡らせているようでした。
ワーク開始30分、皆さんがおおよその課題とデータに目を通し終わったころ、各アライアンスチームでは、推論・仮説・手法についてのディスカッションが散見されはじめました。情報工学や薬学、医学に至るまで、ドメインの学習フィールド・研究対象も様々な皆さんが集まって知見を出し合うのがハッカソンの醍醐味の一つ。今回のイベントでも、多種多様な意見にそれぞれ学生さん同士で良い刺激を受けているようでした。
アライアンスで集まって議論できる時間は、1日目の半日と、3日目の半日しかありません。
「機械学習は経験していても、時系列予測モデルは初めて」という学生さんもおられたようでしたが、短い時間の中でモデル構築の方向性や、特徴量生成・選択の手法についてなど、準備期間の2週間に向けしっかり戦略を練っておられました。短い時間の中でも、活発かつ濃密な議論が交わされていた印象です。
メンターさんにも積極的に質問を行い、ドメイン知識を参考にした解析手法のヒントに早々に辿り着くなど、鋭い着眼点を見せたアライアンスも散見されました。
需要予測モデルの議論が終わるころには、殆どのアライアンスで各人の得意分野・苦手分野をそれぞれ共有し合えていたように思います。
我々自身も一社会人で組織人あるPeakers運営から見て、それが出来ているだけでも十分驚きに値するのですが、アライアンスによっては分析対象や調査対象の役割分担なども終えて各人がタスクに取り組むなど、わずか1~2時間の間でチーム機能が醸成出来ていた組もありました。
メンターの皆さんも、組織力観点でも学生さんのレベルの高さに驚いておられました。
ランチタイム(1日目)
ハッカソン課題の方針が煮詰まりつつあるところで、休憩を兼ねて、約1時間のランチタイムがとられました。ここでもメンターさんにも加わっていただき、大学の研究所の話、卒論・学会の話に始まり、住んでいる所やメンターさんが食べているグリコ商品など、さらにアライアンス内での親睦を深めていました。
初日午後は、第2課題であるビジネスコンテストへの挑戦。
柔軟な発想、知識の相互補完、それらを実現するための円滑なディスカッションが大切になってきます。各アライアンスの連携の濃さに、運営からの期待も膨らみます。
ビジネスコンテスト課題の読み解き(1日目後半)
第2課題は、『グリコ』×『AI』×『社会課題』をキーワードに、「グリコだからこそできるサービスの提案」をして貰うという、極めて抽象度の高い課題です。
『グリコ』×『社会課題』だけでも、問題発見能力・日常的なアンテナの高さ・グリコという企業理解・ビジネスセンスなどを問われる難問ですが、さらにAIへの知見までも求められる非常に難易度の高い問題です。
この課題を通して、日頃から多方面にアンテナを張ることの重要性や、課題意識を持つ大切さなどを実感された学生さんも多かったように思いますが、流石多数の応募から選ばれた学生さんたち、果敢にチームワークを駆使してチャレンジを始めていきます。
各々の班で、マインドマップなどを駆使して、それぞれの考えを体系化。おおよそ1時間~1時間半後には、『社会課題』からアプローチする班と、『グリコの強み』からアプローチする班に二分されていました。どちらのアプローチも納得性のある方法だけに、それぞれどういった結果になっていくのか、2週間後が楽しみな所です。
なお、どのアライアンスでも『コロナ』というキーワードが多く出てきていました。
コロナ起因で「家に引きこもることが多くなった」「運動をする機会が減った」「学校の行事もなくなり、人との関係が希薄になってきた」など、実体験も踏まえたリアリティのある問題提起は印象的でした。
中盤、アイデア出しが一通り終わった多くの班は、「社会課題・グリコ・AIとの接点が上手く作れない」という、次の難所に取り組んでいました。
実務レベルで課題解決が義務付けられているシーンに遭遇すると、「適切な粒度で課題と課題解決状態を定義し、その定義に向かって動く」ということが重要なポイントになりますが、場合によっては、これは社会人でも忘れてしまいがちな所。
ここでは、各班の経験豊富なメンターさん達が、学生さんのユニークなアイデアを活かしつつ、「見つけた課題粒度をうまくブレイクダウンできていない」「課題解決の状態をうまく定義できていない」といった点に自然に目が向くようコーチングされつつ、チーム全体一丸で乗り越えていました。
学業の中では余りなじみの無い発想ということもあり、学生さんに拠っては、「大きな気付き」として捉えた方もおられたようです。
議論終盤、知見の共有を進めていく上で見えてきたのが、アライアンス制の難しさ。
議論を交わすことで多くの発想は生まれますが、発表・評価は個人で行われるため、どこまで意見を出すべきか、出された意見から自分なりのアイデアをどう生み出していくか、ここでも多くの方が悩まれていました。
ここもアライアンスごとに戦略が分かれ、個人アイデアの余力を残すために議論を適度に打ち切ったアライアンス、発想の豊かにしようとしてギリギリまで議論を交わすアライアンスとありましたが、いずれのアライアンスも、この短時間にメンバー納得の上で方向性を決めて進められていたのは流石でした。
1日目 終了
緊張しつつ始まった初日も、1日を通して懸命に戦った仲間達との和やかな雰囲気の中、無事終了。
本日の議論と共有された知見をベースに、2週間の個人準備期間に入ります。この準備期間内も、Slackを通じてアライアンス内での情報共有や、メンターさんへの質問受付は継続されます。
これから2週間でどこまで伸ばせるのか、期待と不安の中、チャレンジ期間がスタートしました。
2日目
2日目は、江崎グリコ株式会社によるビデオオリエンテーションと、グリコについてグループワークが開催されました。
前半はグリコが擁するプロフェッショナル人材の中において、NHKでも紹介されたことのある商品開発・マーケティングのプロ、小林正典氏についての紹介、後半はグリコについての見識を深めるグループワークをされたとのことでした。
残念ながら、Peakers運営チームはこの日は参加しておりませんでしたが、参加学生様からのお話しでは、グリコの歴史の再認識や働くということ等グリコの魅力を存分に知れた1日となったようです。
3日目(最終日)
3日目、ついに2週間の集大成をみせる発表の日です。
最終日直前まで、個人で、アライアンス内で、皆さん鋭意努力の上、最終日に挑まれました。
課題①:AIハッカソン 最終課題提出
3日目当日に、評価対象となる予測商品のデータが配布されました。
参加者はわずか1時間で、これまでに構築したモデルの調整と予測結果の提出を行わなくてはなりません。対象商品の特定日時における発注数の予想が課題となっており、誤差をRMSEで評価しました。
予測データの提出後は、口頭発表を実施いただきました。
分析手法の概要とポイント、時間がかかった点や改善点などを発表。各参加者、様々な手法を凝らしてモデルを組み上げてくれていますが、発表時間はわずか5分。限られた時間で聞き手に納得感のある説明ができているかも評価の対象となりました。ここでは、特に予想精度が良かった3名の学生さんをご紹介します。
Iさん(名古屋市立大学大学院)
商品の発注数というブレの多い分析対象をカバーすることを目的に、不確実性まで考慮できるProphetを用いたモデルを採用、Oputunaを利用してハイパーパラメータの最適化を行ったとのことでした。
Iさんの発表で印象的だったのは、着眼点と細かい特徴量の作りこみ。
商品と気温の相関がある事は、参加学生の皆さんはほぼ全員気付いておられたようですが、特筆すべきは「体感気温」まで発想を広げ、モデルへの落とし込みが出来ていたのは今回Iさんだけだったということです。
事前に与えられた平均気温、最高気温、最低気温の過去10年平均のデータに加え、体感気温に影響のある「気温・湿度・風速」のデータを気象庁から別途取得、UMAPによる次元削減を用いて高速かつ効率的に特徴量精製を行ったとのことでした。
他にも、実商品の発注数データを「トレンド」「季節性」「残差」に分解、それぞれで予測し最後にその結果を合成する手法を取るなど、実際の現場のような「商品特性にしっかりと着眼した分析」が、今回の好結果につながったようです。
Iさんは、時系列データでの予測を扱うのは初めてとのことでしたが、限られた時間の中、LightGBMやARIMA、RFなど複数モデルを試し、合理的なモデル選択に至った点も高い評価を受けていました。
ポイントの一つである変数選択は、単変量解析のF検定を用いてスコアの良いものから機械的に選択したとのことでしたが、「根拠はあるものの現実にはそぐわない選択」がされてしまったことなど、まだ十分伸び代があることをご本人も理解しておられました。
Nさん(名古屋市立大学大学院)
Nさんは、日頃なじみのあるLightGBMを用いて最初の予測モデルを構築したとのことですが、主に気温関連指標と商品の相関についてEDAを進めていく中で、季節性やトレンド変化点を加味するモデルが適切と判断、多数のモデルの中からProphetの採用したとのことでした。
Nさんの導いた高精度の結果も然ることながら、次の2点が印象的でした。
1点目は、理論を以てprophetモデルの採用に辿り着かれたこと。
今回は、運営からprophetの存在を周知した影響でprophetを採用された学生さんもおられた中、丁寧なEDAに基づいてデータの特徴や分析したい内容を丁寧に考察し、消去法的にモデル選定に至った点は、高い評価を受けていました。
2点目は、かなり多くの試行・検証をされていたようですが、情報量に対して資料も説明も簡潔に纏められており、最終進捗を一度で理解できるわかりやすい形で発表されていたことです。
作成した特徴量の一部だけモデルへ組み込んだこと、AICにて説明変数の数の調整が必要という所は把握していたこと、対数差分をとってモデルフィットを高めようとしていたこと、複数モデルの比較検討やクロスバリデーションなど、「すぐに性能が改善できると分かる内容」がまとまっており、聞き手にとっては今後期待したくなるような内容でした。
Mさん(京都大学大学院)
Mさんも時系列予測は初めてとのことで、時系列データそのものの扱いとモデル選択に悩まれたようですが、「トレンドに対応しやすい、時系列予測に強いモデル」という理由でProphetに辿り着かれたとのこと。
EDAの経過を、商品カテゴリごとの特徴や季節性、トレンドなど、把握された内容と仮説を、図を交えながら非常にわかりやすく説明くださったのが印象的でした。
実装では、EDAで把握した年末年始などのスパイクや、休日、緊急事態宣言発令期間などをイベントとして組み込み。好成績に至ったようです。
一方で、「今回はProphetをブラックボックスで使ってしまい、勉強が必要という」Mさん。モデルの基礎理論を理解することで、今回苦戦した気温関連指標での適切な特徴量精製や、モデルに組み込んだスパイクの選出根拠など、精度向上を狙っていきたいとのことでした。
課題②:ビジネスコンテスト 発表
3日目の後半はビジネスコンテストの発表です。アライアンス内で共有した知見・議論を生かしながら、提案するサービスの中にどう自分の個性を反映させるかが重要となります。
こちらも、発表時間はわずか3分間のみながら、社会課題・AI・グリコ・オリジナリティ・ビジネス性・整合性というポイントをしっかり押さえた内容で伝えられるかが鍵となります。
今回は、決勝まで進んだ6名の方の発表をご紹介します。
Sさん(同志社大学)
病気の予防観点で、AIパーソナルトレーナーが、自分に合った生活習慣・運動メニューを提案してくれるサービスを提案してくれました。それだけであれば、類似サービスは世の中にありますが、特徴的なのはそのユニークな仕様です。
パーソナルトレーナーのキャラクターであるゴールデンマーク(=グリコの走る人)が、生活習慣や運動状況に合わせて、『今の運動で600㎉だ。次はスクワットで行くぞ』『言動よりも言葉で示せ!』など鼓舞するメッセージを発信してくれます。また友人間で使用することで、自分の燃焼したカロリー分を相手に送り付け相手方のゴールデンマークを太らせることができるなど、ゲーム性を持たせることで多くの人が楽しめる内容に仕上げていました。実現可能性に加え、アイデアのユニークさが評価されました。
Dさん(名古屋市立大学)
Dさんが提案したのは、病院実習の経験から生まれた、高齢者を対象にした個人のデータから個人に応じた食事を算出するサービスです。
少子高齢化に伴う現役世代の負担の増加と医療・介護の担い手不足を、個人に合ったグリコの栄養補助食品・宅配サービスを利用することで、疾患の予防・住所化の予防などにつなげ、社会保険費増大、医療・介護の担い手不足を解消しようというアイデアでした。
具体的には、現在の個人情報(体重、疾患、検査値など)を登録、過去のデータを参考に嗜良に合わせ個人に応じた食事やおやつを提示、患者宅まで毎週配送、検査値を追加登録することで、次回以降の食事に反映するなど。
病院実習で患者さんに触れ感じた実体験に基づいたアイデアということで聞き手も共感しやすく、更に「社会ニーズに応える日常必需食品」という直近のグリコが目指す方向性にもリンクした、実現方法までしっかりと作り込まれたサービスでした。
Nさん(東京大学大学院)
コロナ禍でテレワークが進む中、増加している「職場上での社会的孤立感」に着眼した、Nさん。
仕事の感謝の気持ちを「お菓子そのもの」ではなく、『お菓子ポイント』で受け渡しするというWEBサービスを提案してくれました。第一義的には、付与した側にもインセンティブを設けることにより、サービス導入企業内での活発な交流を促進。次いで、同サービスの一部として展開されるチャットツール上の交流をAIで分析し、企業が把握することで、早期に職場内の孤立に気づける体制づくりを実現します。類似のサービスは存在していますが、「気兼ねなくやり取りできるグリコのお菓子」を介すことで、サービスの有効性をさらに高め、ビジネス上の差別化まで考えられていたのが印象的でした。
Nさん(京都大学)
Nさんは、ご自身が実感されている“不規則になりがちな一人暮らしの食生活”から着想。
AIを通じて、バランスのとれた食とコミュニティを同時に提供するサービスを提案してくれました。
AIが個人の栄養バランスに合わせた食事セットを提案すると同時に、サービス利用者への事前アンケートを元に、セット購入者同士のオンライン共食の場を提供するというシステムです。
多忙な日常の中、孤食は栄養が偏りがちで生活習慣病に繋がる恐れがあること、またコロナ禍で食を通してのコミュニティが減少し、孤独感によるうつ病などの精神疾患の増加が予想されるなど、孤食は社会課題の一つとなっています。
食生活の改善も行いつつ、食を通し新しいコミュニティに参加できる機会も得ることができる、組み合わせの斬新さが評価されました。
Mさん(京都大学大学院)
Mさんは、健康度合を100点満点で数値化、かつ栄養の過不足に合わせてグリコの健康食品を自動でAIが提案してくれるサービスを提案。サービス名は“グリコ健康指数”と、直観的でわかりやすいネーミングが印象的です。
ご自身が利用中の食事栄養管理サービスでは、「必要栄養素の不足」までしか分からないそうで、食事の健全性を直感的に理解でき、気軽に食生活を改善できるサービスにニーズがあるのでは、という実体験に基づいた所から“グリコ健康指数”の発想が生まれたそうです。
予防観点では、本来多くの要素を考慮しなくてはなりませんが、“運動・飲酒・喫煙などを考慮せず、食生活だけによる予測で済む”“生活習慣病患者のデータを必要とする場合、病院などと連携する必要がある”など、ビジネス上での実現可能性と本サービスの拡大可能性まで視野に入った提案でした。
Uさん(香川大学)
Uさんは、グリコの既存サービスで、学校にも設置されている「セブンティーンアイス」の自動販売機を利用した撮影サービスを提案してくれました。
具体的には、セブンティーンアイスの自動販売機筐体にカメラを設置し、商品購入者の任意選択で写真や動画を撮影。WEB上で提供するサービスの一例として、撮影時にはAI技術でグリコの商品を認識し、商品ごとに画像背景を変換、自分の端末にダウンロードしたり、SNS上で展開できる、といった内容です。
本サービスの前提として、「コロナ禍で中学生・高校生・大学生のうつ症状が増加」という社会課題に着目。「相次ぐ学校行事の中止で学生時代の思い出がないことが要因ではないか」「思い出≒写真という構図があるのではないか」という仮説を元に、友人との休み時間の会話や帰りの寄り道などの日常を写真として残すことで、“確かな思い出”が残るのではと考えました。
「セブンティーンアイスの商品ターゲット自体が学生」ということで、本提案と既存サービスのターゲットがマッチしていることも高い評価をされていました。
加えて、「販売機の筐体には広告枠を含めた18個分のマスがあるが、商品は17種類で、広告枠にカメラが設置できる」というユニークな提案が、メンターさん達から好評でした。
ご紹介した以外にも、メンターさん、Peakers運営人も驚かされる発表が多々ございました。
みなさんの多種多様なアイデアが詰まった発表が展開された、充実した発表時間となりました。
結果発表・総評
総合優勝は、コンペティション部門のリーダーボードから算出される予測精度のスコア、口頭発表での評価、ビジネスコンテスト部門の評価の、総合で決定されました。
そのため、誰が優勝者か最後までわからない展開となりました。また、部門別の優勝者、メンター賞も進呈されました。
それぞれの受賞者をご紹介します。
・総合優勝 Nさん(東京大学大学院)
・ハッカソン優勝 Nさん(名古屋市立大学大学院)
・ビジネスコンテスト優勝 Dさん(名古屋市立大学)
・メンター上田さん賞 Sさん(同志社大学)
・メンター竹下さん賞 Nさん(立命館大学大学院)
・メンター田中さん賞 Nさん(立命館大学)
・メンター藤本さん賞 Mさん(京都大学大学院)
・メンター井上さん賞 Tさん(大阪大学大学院)
さいごに
イベント最終日、最初に印象に残ったのは、ことあるごとに「今回のイベントを通じて、グリコのことが好きになりました」「僕も/私も!」と仰る学生さんが非常に多かったこと。
一般的に、オンラインイベントは現地開催のイベントに比べてコミュニケーションが限定的になってしまいがちですが、それでも学生さんを惹きつけてしまうグリコの皆様のお人柄、確かな技術力や指導方法は、学生の皆さんとのやり取りを通じてPeakers運営も容易に感じることができ、今回3回目を迎えた本イベントの人気の理由を改めて知るところとなりました。
「プロフェッショナルは長い時間、与えられた課題に取り組むことが必要とされます。なので、(長くプロとして活躍する為に、)楽しむ気持ちを大切にして欲しいと思います。」とは、実際に最前線でプロとして活躍され続けている、メンターの上田さんからの総括のお言葉。本イベントを通じて高い壁に挑戦された参加者全員に、深く染み入ったのではないかと思います。
多くのハッカソンを企画運営させていただく中で、「AIハッカソンとビジネスコンテストの課題2本立て」というだけでもなかなか珍しいのですが、「学生さんの創意工夫を見たい」という想いから、ボリューミィかつハイレベルに課題を仕上げられ、今回、更にその先を行かれたグリコさん。
満を持して用意されたこれらの難問に対し、参加者の皆さんがどの様に立ち向かわれるのか、Peakers運営陣も非常に楽しみに注目していたイベントでした。
実際、皆さんかなり苦戦されたようで、「AIハッカソンでは、慣れない時系列データの扱いとモデル構築に苦労した」「ビジネスコンテストでは、アイデア提案することと、ビジネスとして成立することが全く別である事に気付けるまで時間がかかった」などの声が上がっていました。
一方それ以上に「機械学習の新たな手法を学び、多くの知見を得られた」「短い期間で1から物事を作り上げた事で自信がついた」など、苦労の分、成長が実感できたという声も多数聞かれました。
イベント終了後の皆さんの満足した表情からは、困難にチャレンジしたこと、やり遂げた事への充実具合が伺え、各人にとって実り多いイベントであったことを我々も確信する事ができました。
上田さんのお言葉の様に、チャレンジする事や学ぶことに対して『楽しむ』という気持ち味わっていただける場を提供し続けられるよう、Peakersメンバーも思いを新たにさせていただいた、本イベントでした。
Peakersでは、今後も様々なハッカソン・MeetUp・インターンシップを開催予定です。ここでしか体験できない学びを手に入れたい学生の皆さん、ご参加をお待ちしております!