AI・デジタル研究者の、データによる価値創造プロセスを体感。日立製作所主催ハッカソン2022年2月 優秀者インタビュー 吉村直也さん 大島風雅さん 廣谷圭祐さん

吉村直也さん
大阪大学大学院情報科学研究科
大島風雅さん
広島市立大学大学院情報科学研究科システム工学専攻
廣谷圭祐さん
横浜国立大学大学院理工学府数物・電子情報

2021年10月に開催され大きな好評を得た『日立製作所のAI・デジタル研究者と学ぶ課題解決型オンラインハッカソン』が2022年2月5日-6日、課題内容を一新して再びオンライン開催された。

本イベントは「協創」の現場に携わる日立製作所の現役AI研究者と共に、価値創造のプロセスを学べるプログラムだ。

今回は日立製作所が取り組む社会イノベーション事業の分野のうち「都市における電力消費の効率化」をテーマとし、仮想クライアントの要望と与えられたデータをもとにニーズや課題点を深掘りしたうえで施策を提案することが求められた。

学生たちは、コーディング力や機械学習の知識だけでなく、さらに一歩先の「データによる価値創造」を達成する力を競い合った。

主催の日立製作所は社内に高度な専門性を持つAI研究者、データサイエンティストを多数抱えている。国内外の様々な分野の顧客とタッグを組み、デジタルソリューションサービス「Lumada」を中心にデータを用いた社会イノベーション事業を展開する。英国におけるエネルギー消費の最適化、公共交通機関における混雑回避アプリケーションの開発など「協創」の事例は多岐に渡る。

本イベントの中心を担ったのは、100年を超える日立製作所の技術を蓄積し、発展させ続ける研究開発グループだ。研究開発グループでは主に「エネルギー」「機械」「材料」「制御」「人工知能」「デジタルテクノロジー」「計測エレクトロニクス」「システム」「生産」の9分野で高い専門性と技術力を持った研究者たちが活躍する。

当日のメンタリングは、日立製作所の現役AI研究者やAI関連部署社員がメンターとして参加。わからないことやつまずいたことがあった際は、いつでも質問できる環境が整えられた。

学生たちは、基本的な考え方や論理に基づいた研究テーマの設定の方法など、メンターと直接交流することによって得られる知識に触れ、最先端の研究領域で活躍するメンター陣の力を借りながら、自身の成長を実感する2日間となった。 

最優秀賞受賞者

本イベントの評価は3リーグに分けて行われ、各リーグから最優秀者が選出された。

吉村直也さん–大阪大学 大学院情報科学研究科
大島風雅さん–広島市立大学 大学院情報科学研究科システム工学専攻
廣谷圭祐さん–横浜国立大学 大学院理工学府数物・電子情報

さまざまな視点からの考察が必要で、非常に難易度が高かった本イベント。優秀な成績を収めた皆さんに、受賞のポイントなどを伺った。

―大学での研究内容を教えてください。

吉村さん:
普段はスマートウォッチなどを使った行動認識に関する研究をしています。工場の生産ラインの作業工程などをセンサーデータから推定する技術を用い、最終的には工場全体のヒューマンファクターを考えた最適化を目指しています。

大島さん:
大学院ではブラインド分離(音源分離)の研究をしています。複数の人が話をしている時に、機械学習を用いてそれぞれの音声にわける技術です。私がターゲットにしている領域は、教師なしで最適化手法を使った試みで、アルゴリズムの改良を重ねています。

廣谷さん:
私の所属する研究室では自動運転車用のLiDAR受光素子を開発しています。私はその中の一部の素子で高性能化すること研究を進めており、最適化の際に機械学習や進化計算を用いています。

―ハッカソンに参加したきっかけは?

吉村さん:
今回、主催企業からLinkedInで連絡をいただいたことに加え、OB訪問をしたときに「社員の方と交流できる機会」があると紹介していただきました。

大島さん:
ハッカソンに参加したきっかけは、主催企業からLabBaseで連絡をいただいたことです。

廣谷さん:
私も主催企業からLabBaseで連絡をいただき、このハッカソンを紹介していただきました。普段の研究で計算やデータを扱っている自分の力を知ると共に、意見交換などを通じてスキルアップをしたいと考えて参加しました。

―参加してみていかがでしたか?

吉村さん:
今回は、がっつりデータ分析するというよりも、背景知識を理解してクライアントが求めるものを探索するようなデータ分析が特徴でした。データ分析のウエイトより課題背景の分析が大きく、ドメイン知識をほとんど持っていなかったので大変でした。

大島さん:
今回のテーマは、私の将来像である「データ分析領域での価値創出、社会貢献につながる仕事に就きたい」と合致するイベントでした。参加したことで、自分に足りない思考や深掘りが必要な部分について、3名のメンターの方とお話できました。どの方も新しいアイデアや自分にない視点があり、刺激的な2日間でした。

廣谷さん:
「大変だった」というのが率直な感想です。目的がはっきりしていている普段の研究とは違い、今回のハッカソンのように顧客にあわせて考えることが求められました。そういった経験はあまりなく、私はもともとじっくり考える方が得意です。メンターの方の指導から、どういったことが課題なのか、どういう提案をすればいいのかを学ぶことができました。

―好成績を修めましたがどのような工夫をしましたか?

大島さん:
最初のデータ分析のときに、まずデータ分析方法を決めて、漠然と1つの方針を立てました。解析結果に何らかの解釈を与え、長期的/短期的、空間的/時間的などの対照的な見方をしていく中で、メンターの方との1on1の際に最初の漠然とした方針を伝え、新たなアイデアをメンターの方の視点を頼りに引き出していきました。1人で進めても限界があり、他の人の力を借りることが重要だと考えたからです。そういった考え方や最初の方針などによって、(高い)評価をいただけたのではないかと考えています。

廣谷さん:
短時間だったので、きっかけとしてまずは普段の研究内容である自動車関連(のデータ)を見ていきました。すると自動車の消費電力が増加しているということがわかり、(自動車の分野から)解決できる課題を見つけられました。議論を進めていく途中で考えが発散してしまったときには、メンターの方から方向性を正していただきました。メンターの方の教えも糧となり、外部調査などによって意見が補強できたのも好成績に繋がったのではないかと思います。

吉村さん:
はじめにアイデアや最適理解にある程度時間をかけてから、がっつりデータ分析をしようとしていましたが、1日目のフィードバックタイムに「ある程度ストーリーラインができているので、そこをもう少し固めた上で、必要なデータ分析だけをする方法がある」とアドバイスをいただきました。データ分析時間を最小限に抑えて、情報の補強やストーリー作りに時間を費やせたところが、スコアを伸ばせた1つの大きなポイントではないかと捉えています。
2日目のフィードバックタイムでは、ストーリーラインを一気に広げるような新しい視点をいただき、ストーリーの広がりに繋がったのではないかと思います。メンターの皆さんのお力添えが好成績に繋がった大きな要素だと感じています。

―普段の研究開発が好成績に繋がった部分はありますか?

吉村さん:
普段から研究テーマを探したり、新聞や論文などを読むことで視野を広く持つようにしており、今回提案した理論もどこかで読んだ記憶があり、久々に引き出してきました。
研究開発における知識が直接というよりは、普段からの取り組みが効いたのではないかと思います。

大島さん:
機械学習、統計というテーマで「データをどう扱えばいいか」「データを見るにはどういう量を使えばいいか」という点で研究しているので、知識は積み重なってきています。
今回はメンターの方の意見を取り入れるために「どのような土台が必要か」を考え、ある程度自分の中で結論を出し、議論が活発になるような土台作りができた部分は、これまでの研究のなかで培ってきたことだと思います。

廣谷さん:
普段は自動車関連の研究に携わっているので、そこでの視点が評価につながったのではないかと思います。研究室の指導教官に毎週のようにスライドの添削、研究報告で鍛えていただいているので、そういったことも好成績に繋がった部分だと感じています。

―メンターさんの印象や役に立ったアドバイスについて教えてください。

大島さん:
1日目、データ解析とアイデアを並行して進めていたとき「ハッカソンの目的として結論を出さねければならないので6~8割の解析でもいいので結論を出すようにしよう」と気軽な感じでいただいたアドバイスが一番効いたと感じています。そのアドバイスが「解析はここまで」という判断を打ち切る決定打になりました。

吉村さん:
私も時間管理のところが一番効きました。「データサイエンスビジネスではたくさんの案件を抱え、限られた時間で分析し、お客様に価値を返さなければならない」といったことが、メンターの方は実践されていると感じました。そこを教えていただけたのが大きかったのではないかと思います。

廣谷さん:
クライアントへの提案の仕方が非常に勉強になりました。データ分析やそれをもとにした課題解決は自分なりに実践したつもりですが「クライアントにいかに提案するか」という考え方は、現時点での自分には欠けている部分だったので、ミーティングや発表を通じてメンターの方からアドバイスをいただきました。

―主催企業の印象について率直な感想をお聞かせください。

大島さん:
以前、日立製作所に関する記事で「博士号取得を推奨する」「研究者を増やしていく」といった内容を見かけたことがあり「研究を重視していく組織」「研究しやすい社風」という印象を持つと同時に、「伝統的な大企業は保守的」といったイメージもありました。今回参加したことで、想像していたよりも自由度が感じられ、メンターの方は「楽しく研究できる環境」を確立しているように見えました。実際にメンターの方と触れ合い、研究所の中身や体制を知ることで、良い環境だと感じることができました。

吉村さん:
研究室のOBなどを通じて、日立の研究者の方とはもともと交流があり、優秀な方がたくさんいることは知っていました。そういう意味では印象は参加前と参加後で大きく変わっていません。今回参加したことで、印象的だったのは「若い研究者も優秀で、自由度・アクティビティが高く、色んなことに取り組まれている」といった部分です。日立の研究所は面白そうだと感じ、興味が生まれました。

廣谷さん:
私は博士課程に進学するか検討していることもあり、普段は研究が中心で、こういったイベントや企業に関するイメージがあまりわかなかったというのが正直なところです。
今回参加したことで、自分の足りない部分や改善策のほか、MTGや交流会を通じて会社のことを教えていただき、すごく良い印象を持ちました。

―今後、どのようなチャレンジをしていきたいですか?

吉村さん:
博士論文を書き上げ、ジャーナルに通すことが、まず成し遂げたいことです。研究予算もいただいているので、行動認識が実社会に使えるような技術になるよう、あと1年がんばって高めていきたいと思っています。もう少し長いビジョンでは、アカデミアよりインダストリーに行きたいと考えており、その中でアプライド・サイエンティストのような形で、研究から生まれた技術を実際の社会に適用していく橋渡しのような仕事ができればと思っています。

大島さん:
今回のハッカソンで学んだ「まとめることの大切さ」を活かし、国際会議あるいはジャーナルに投稿できるように研究内容をまとめて、研究を1つの形で完結させることが2022年度の目標です。データサイエンスというと、数学的側面と工学的側面があります。数学的側面は理論の美しさが源にあり、工学の意義は経済的価値創出だと思うので、何かしらの価値創出によって社会貢献、社会に還元するエンジニア、データサイエンティストになることが将来の目標です。

廣谷さん:
直近の目標は自分の研究を前進させることです。既に自動運転の性能向上に関する論文を出し、さらなる性能向上に関する研究を始めています。この研究によって自動運転に大きく貢献できると思っています。将来についてはまだ明確なビジョンを描ききれていませんが、自分の研究である自動運転技術を進めることで社会貢献していきたいと考えています。私は地方出身なので、自動運転によって車が必須の地元の人々の暮らしを便利にできれば嬉しいです。

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