日本の暗号通貨の未来は明るいか?日本初ブロックチェーン事業インキュベーション施設HashHubに聞いてみた。
「日本はここ半年で一気にブロックチェーン後進国になってしまった」
日本は、世界有数の仮想通貨大国だ。
ビットコインの取引の約66%が円建てで、米ウォールストリートジャーナルは日本を「仮想通貨天国」とまで呼んだ。
しかし、それに異を唱える声もある。
「日本はここ半年で一気にブロックチェーン後進国になってしまった」と語るのは、2013年からビットコイナーとして活動し、世界中の暗号通貨プロジェクトの取材・ミーティングを重ねてきた平野淳也氏。
「仮想通貨投機」ばかりが目立ち、ブロックチェーン事業が生まれにくい日本。
そんな現状に追い打ちを掛けるかのように、施行された日本政府による厳しい規制。
そこで、立ち上がったのがブロックチェーン事業に特化した日本初のインキュベーション施設HashHub。本日8月2日にオープンしたばかりだ。
今回は、運営者の一人平野氏と、HashHubにエンジニアとして参画する邑中雅樹氏、通称「もなか」(ハンドルネーム)氏に取材。
日本の仮想通貨の現状そして未来に対する二人の考えに迫った。
日本でブロックチェーン事業が育たない理由
ーHashHubを立ち上げられた経緯について教えて下さい 。
平野氏:僕は、2013年後半からビットコイン・ブロックチェーンの業界にコミットしています。
当時は、まだ日本語でブロックチェーン・ビットコインの情報がほとんど無かったので、日本語での情報発信をしたり、解説などをしていました。
HashHubを立ち上げようと思ったのは、日本からブロックチェーンプロダクトが生まれる環境が整っていないと感じたからです。
世界全体で見て、日本でプレゼンスのあるプロトコルがない。アプリケーションレイヤーもない。
そうした環境に対してアクションを起こしたくて、HashHubをつくりました。
ー確かに、日本でブロックチェーンというと、仮想通貨のイメージが先行しますよね。なぜ日本では仮想通貨取引は盛んなのに、ブロックチェーン事業はなかなか生まれにくいのでしょうか?
ここ最近のことでいうと、日本の規制の問題があります。
僕は、ここ半年で日本は一気にブロックチェーン後進国になってしまったと思っています。
日本は世界で初めて、仮想通貨を資産として認識して、法律・規制を作った国です。
そうした行動自体は良かったと思います。
しかし、「仮想通貨=金融商品」という立場から、仮想通貨に関わる事業に金融業と同じ規制がかけられることになりました。
仮想通貨の取引所がある程度しっかりとしたライセンスを求められるのは自然だと思います。
しかし、一方で仮想通貨はアプリケーションの中でやり取りされることがあります。
そうしたアプリケーションレイヤーでも、取引所と同じライセンス・規制が求められる。
個人的な意見ですが、アプリケーションレイヤーとしてブロックチェーンプロジェクトをローンチする国として、日本が最も難しい国の1つになってしまっています。
海外では、アプリケーションレイヤーと金融の側面を分けて考える国が多い印象があります。
ー逆に、この国はブロックチェーン事業に良いという場所はありますか?
どこの国も明確なフレームワークはまだ無いんです。ただ、だからといって日本みたいに規制をかければいいというものでもないと思います。
最近、アメリカがICOを証券として見なすという考え方を打ち出しました。
これに日本も続いていく可能性は大きいと見ています。
ー規制以外で、日本でブロックチェーン事業が生まれにくい理由はありますでしょうか?
金融商品というイメージが強いことは大きいと思います。日本で暗号通貨というと、基本的に今は取引所ばかりが目立ちます。
あとは、英語の壁ですね。
ブロックチェーンの世界は、英語が完全にスタンダードになっています。英語ができなければ、最新の情報が得られない。
「ブロックチェーンを使って何かしたい人は多い。でも、ビットコインが何だかも分かっていない」
ーHashHubでは、どのようなサービスを受けられるのでしょうか?
特に、税務や法務のサポート体制が特徴的だと思うのですが、詳しく教えて頂けますか?
まず、税・法の専門家からアドバイスを受けることができます。
暗号通貨の規制も税務も、まだまだすごい複雑なんですね。
例えば、法人が暗号通貨を持ったら、どのように税務処理をするのか。
また、規制にしても、暗号通貨でこういうことがやりたいが、規制の面では大丈夫なのか。かなり分かりにくい場面が多いという現状があります。
特に、個人の開発者が、アイディア段階の時に、どの規制を意識すべきなのかということをすぐに相談できる場所がないんです。
そういったところを、HashHubと連携している暗号通貨に特化した弁護士・税理士の方に相談できるサービスを提供します。
ーオープンソース開発支援についても教えて頂けますか? 日本のブロックチェーンのオープンソース開発の現状はどうなっているのでしょうか?
もなか氏: 欧米諸国に比べて、日本はブロックチェーン業界のオープンソース開発が遅れています。
その理由は、まずそもそも日本はほとんどが取引所。
金融の世界なので、ほかのIT分野に比べ、オープンソース開発しようという発想に行き着かないところがあると思います。
あと、これは持論ですが、日本全体でソフトウェアに対する敬意が欠けているんじゃないかと思います。
「ものづくり=形を作るもの」みたいなイメージがあって、目に見えない、ものを制御するソフトウェアというものが軽視されているのではないか、と。
私は組み込みソフトウェアの世界にずっといますが、優秀なものを作っても、ソフトウェアに対してお金を払うという思考があまりにも欠けていると感じます。
ソフトウェアにお金をかける欧米に、そこで差をつけられてしまったのではないかと思っています。
ービジョンの1つに「ブロックチェーン業界を他業界と繋げる」とあります。具体的に、どのような方法で実現される予定でしょうか?
平野氏: 「ブロックチェーンを使って何かしたい」という企業は多いんです。
しかし、話を聞いてみると、ビットコインそのものがなんなのかも分かっていなかったり、別にブロックチェーンを必要としないようなプロジェクトをブロックチェーンで進めようとしているところもあります。
そうした企業向けに、ナレッジを共有することが大事だと考えています。
そのために、法人プランを用意しました。
すでに大企業の新規事業担当者などが登録しています。
ーしかし、規制など含め、この過渡期の中でアドバイスをするのは難しくないのでしょうか?
過渡期だからこそ、ナレッジを共有していかなければいけないと思っています。
今、僕らのチームは1日の大半の時間を、ブロックチェーンの最新情報取得や勉強に割いています。
そこで得たナレッジを、これからブロックチェーン事業に参画したい人たちにもシェアすることで、日本のブロックチェーン開発を盛り上げていかなければと思っています。
僕たちが「教えてあげる」という上からの立場ではなくて、同じ立場で企業や個人の入居者と議論していきたいと思っています。
ー現在確定している入居者は、ほかにどのような方がいるのでしょうか?
詳しくは言えませんが、ブロックチェーンを使ったゲームのアプリケーションを作るプロジェクトの方々が入居予定です。
また、この業界は英語がベースなので、翻訳の仕事が多いんですね。
そこで、ブロックチェーンに特化した翻訳家の方達にも入居して貰う予定です。
同じスペースにいれば、すぐに仕事が頼めるという利点があります。
ジンバブエの副首相に仮想通貨講義。途上国でこそ感じた、仮想通貨の可能性
ー平野さんももなかさんも、日本で仮想通貨が騒がれる前から関わっていたということですが、どのようなきっかけで仮想通貨業界に入るようになったのでしょうか?
僕は、学生時代に貿易会社を起業して、10ヵ国くらいで貿易業に携わっていました。
特に、東南アジアやアフリカの新興国との取引が多かったのですが、そこで直面した課題がキャッシュフローの悪さです。
送金手数料も高いし、真面目にビジネスをしていても、現地政府の決定で突然、銀行口座が止められたこともあります。
そこから、仮想通貨に興味を持ち始めました。
また、自国通貨に振り回される現地の人たちの生活を目の当たりにしたことも、理由の1つです。
2015年にドル高になったときに、新興国通貨が一気に下がりました。タンザニアやザンビアなどでは、通貨が30%も価値が落ちました。
そこの国に住む一般の人たちは、国外送金することもできず、自国通貨を使うしか選択肢がないんです。
自国通貨に身を委ねないといけないのは、とても理不尽だと思いました。信用もできないような政府と一蓮托生なんておかしい。
そこで「もしビットコインがあれば、選択肢になるのではないか?」と考えました。
例え自国通貨の価値が乱高下しても、仮想通貨を持つことが生活を安定させる一助になるのではないかと。
ーアフリカでは仮想通貨は流行っているのでしょうか?
あまり一般の人が知っている感じでは無いですね。
ただ、仮想通貨について説明すると、結構みんな「良いアイディアじゃないか!」という反応でした。
ヒアリングのために、ジンバブエの副首相に直接会って、仮想通貨について説明したこともあります。
南米のベネズエラは、かなり仮想通貨が流行っていますね。
自国通貨が今数十倍のインフレを起こしているので、本当は禁止されているんですが、勝手にマイニングをして仮想通貨で稼いでいる人が多い印象です。
仮想通貨との数奇な出会い:自分と同じ名前のついた仮想通貨が現れた
ーでは、もなかさんはどういったきっかけで仮想通貨業界に関わることになったのでしょうか?
もなか氏: 2ちゃんねるで、もなーというキャラクターがいるのはご存知でしょうか?
ー知らないです。
僕は遙か昔からインターネットで「もなか」と名乗ってきました。
なので、その2ちゃんねるのキャラクターが現れた時は、「自分が元祖なのに……!」と思ったものです。
ー……なるほど?????
そしたら今度は、2014年に、そのもなーをあしらったモナコインという仮想通貨が出てきたんです。
他人事とは思えない、運命の出会いを感じました。
モナコインがきっかけで、仮想通貨の世界に入ったわけですが、ブロックチェーンは、もともと僕が携わっていたオープンソース開発とも共通点があると思います。
僕は一度自分の会社を潰しています。
しかし、会社が無くなっても、自分が書いたオープンソースは残りました。
パブリックブロックチェーンの魅力もそこだと思っています。
誰かが死んでしまっても、会社が潰れても、ずっと生き残る。会社の寿命を越えて存在し続ける。
「日本のエンジニアよ、規制と戦え」:これからのブロックチェーン
ーこれからの日本におけるブロックチェーンの展望についてお二人のお考えを最後にお聞かせ下さい。
平野氏 :日本では、仮想通貨というのはここ半年で一気に失速してしまいました。
規制の強化、コインチェックの事件、仮想通貨の下落などなど…。
しかし、ブロックチェーンという技術は進化し続けます。
またアメリカでは、今規制の方向性がはっきりしつつあり、投資の勢いも加速しています。
僕の予想としては、日本含め諸外国が、アメリカの規制をフォローし始めるのではないかと思っています。
そうなれば、さらに、ブロックチェーン業界が盛り上がりそうです。
もなか氏: 僕は今年1年では、規制は特に変わらないんじゃないかなと思ってますね。
ただ、エンジニアとして、同じエンジニアクラスタの人に言いたいのは、「法律や規制は変えられるんだよ」ってことです。
日本のエンジニアは、「規制に対して抗おう」という強いスタンスを持った人がとても少ない。
僕は、オープンソース開発を、日本で「オープンソース開発」という名前ができる前からやっていました。
その時にも、政府や自治体が後押しするイベント運営などへの関与を通じて、日本のオープンソース開発を促進するロビー活動もしていました。
『国がルールを作ったから、それで終わり。』ではない。
エンジニア側からも、働きかけることはできるはずなんです。
Mewcketでブロックチェーン関連企業を取材するときも、外国企業が多いことが常々気になっていた。
「仮想通貨が盛んだというのに、なぜ日本のブロックチェーン事業はあまり耳にしないのだろう?」と。
だからこそ、今回、日本でブロックチェーン事業を促進しようとするHashHubの運営陣に取材できて、どこか安心した。
確かに規制の問題はあるが、もなか氏の言うように、「規制=技術の終わり」ではない。
HashHubが牽引する日本のブロックチェーン事業のこれからが、楽しみだ。
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