55兆円の利益損失を防げ!AIとブロックチェーンで小売の在庫管理を刷新

中国でのイベントの様子。圧倒的に華やか……!(画像は、OSA DCのMediumブログより)

革新的なAI・ブロックチェーン企業が日本にやって来た。

エストニアを中心に世界6都市に拠点を持つOSA DCは、AIとブロックチェーンを活用したデータ管理方法で、年間5000億ドル(約55兆1100億円)もの損失を生み出している小売の在庫問題を解決しようと挑戦している。スタートアップながら、同社のサービスはすでにCoca ColaやDanoneなどの大手小売企業でも導入されている実績を持つ。

そして新たに始めるBtoCサービスでは、コンビニやスーパーなどの商品棚にスマホをかざすとAR技術でそれぞれの商品の詳細な栄養情報が表示されるアプリを開発中だ。

ユーザーは自分の食の嗜好情報が登録でき、ユーザーに合った商品が自動的にサジェストされる機能も付いている。何よりも面白いのが、スマホをかざしたり、レビューを残した消費者には、トークンで報酬が支払われるというのだ。

「何を食べるかは、私たちにとって生きる上でとても大事なことなのに、私たちは商品を買うときに、いい加減な選択をしがちです。それは、ちゃんとした情報がわかりやすく与えられていないからです。私は小売業界で働いて15年以上経ちますが、ブロックチェーンと人工知能という技術がある今こそ、この購買体験を変える時が来たと確信しています」

そう語るのは、OSA DCのCo-founderでストラテジー担当を務めるMaximillian Musselius氏。

プロフィール Maximillian Musselius(マクシミリアン ムセリウス)ヨーロッパ・ロシアの小売企業が集まるECR(※1)ヨーロッパの共同議長を務める。ECRロシアの執行役員も兼任し、ロシア・ヨーロッパの小売業界で15年以上の経験を持つ。同じく小売のベテラン、57ヶ国で17年以上小売業界の経験を持つAlex Isaiev氏と2015年OSA DCを設立。

実は、今年4月のAI EXPOをきっかけに、OSA DCは日本でもサービス展開する話が進んでいる。そして今回、来日中のMusselius氏に日本メディアとして初となる独占取材をする機会を得た。

OSA DCがどのように小売業界、そして私たちの購買行動を変革しようとしているのか、迫った。

※1ECRとは、Efficient Consumer Responseの略称。より高い消費者価値を実現するために、メーカー・卸業者・小売業者が連係して流通の効率化を進め、無駄な在庫を持たないことで低価格を実現するなどすること。

ヨーロッパ・ロシア小売業界15年の経験で気づいた、ニつの問題。「これらは、日本にも存在すると確信しています」

ー小売にハイテクノロジーを持ち込むという考えがとても新しいと思います。OSA DCは小売業界の何を、どう、変えようとしているのでしょうか?

小売のサプライチェーンには、工場、リテイラー、そして店舗の三者が関わっていますが、この三者間でデータがきちんと共有されていない。お互い、部分的にしかデータを知ることができない状況なんです。

この洗練されていない在庫管理によって、年間5000億ドルもの損失を生み出していると言われています。

これは金銭面だけでなく、小売間のお互いに対する信頼性の欠如にも直結しています。工場側は小売側を信頼していないし、また逆も然りです。

小売業界に長くいても、一向に改善されないデータ管理の問題に「ずっともどかしさを感じていた」というMusselius氏

OSA DCは、データセンシングと画像認識のAIを使って、リアルタイムに在庫データを三者へ共有します。そして、「いつ、どれだけ在庫を足せばいいのか」もAIが指示してくれます。

僕たちはこの技術を、すでにCoca ColaやDanoneを始めとする20のリテイラーに提供しています。

―これから、消費者向けのサービスも始めるということですが、それはどういったものなのでしょうか?

お店に入って、食品を選ぶときに、どうやって選んでいますか?

健康に関わることなのに、案外消費者は正しい情報を与えられていない、与えられていても選びきれないことがあるのです。誰も自動車を買う時のように慎重に調べてはいません。

OSA DCは、消費者向けのモバイルアプリを開発しています。消費者はまず、自分のスマートフォンを食品にかざします。そうすると、AR技術によって、商品情報が出てきます。また、この情報はブロックチェーンに記録してあり、改竄できないようになっています。

Mewcket取材陣もアプリを試させて貰った

ユーザーは自分の食の嗜好や食べないようにしているもの、アレルギー情報を登録することができます。例えば、肥満が気になる人は、「砂糖は控えたい」など。

そうして、スマートフォンを商品棚にかざすと、各ユーザーにあった商品が緑色の枠に囲まれてリコメンドされます。商品のレビューも、見ることができます。

私たちはスマートフォンをかざしたり、レビューを残したユーザーに対して、トークンで報酬を返します。FacebookやGoogleなど無料でユーザーのデータを利用するIT企業も多いですが、私たちは自分たちのユーザーにはフェアな扱いをしたいんです。

そして、ユーザーがスマートフォンをかざしてくれれば、その商品棚のデータをBtoB向けの在庫管理サービスに使うこともできます。

サプライチェーンの三者、リテイラー・工場・店舗にリアルタイムデータを提供すると言いましたが、このデータは買い物に来た人が商品をスキャンすることで、入手することができます。この流れがあるからこそ、店舗がいちいち商品棚を確認して在庫確認をする必要は無くなります。

―それは、画期的ですね……!

投資家の反対に遭うも、日本展開は「思ったよりも早くなりそう」。今年の9月にも…?!

―日本でも展開しようとしていると話を伺いました。

そうです。4月に東京に来て、日本でもできると確信しました。

しかし、初めは日本人の投資家の方達に反対されたりもしたんですよ。

日本の投資家に反対された、Musselius氏が取った行動とは?!

『海外の店はいい加減だから、そういうデータがきちんと共有されていないなんてことが起きるのではないか』、『日本ではそういう問題はないはずです』と言われました。

でも、僕は『自分の目で確かめないと信じられない』と思って、何軒も東京のコンビニエンスストアとスーパーマーケットを1人で巡りました。僕がその時見た光景は、投資家からのアドバイスとは違ったものでした。

商品棚に予想以上に穴があることに驚きました。これは、サプライヤーにとって致命的なことです。

もし棚に商品があれば売れていたかもしれないのに、この分、取れていたかもしれない売り上げを失っているのですから。これは、データがきちんと共有されていないことを物語っています。もし、店舗が在庫切れ商品の情報をサプライヤーに適切な時間に知らせておいたら、この穴はできません。

―ご自分で確かめに行ったんですね!逆に、この国はサプライチェーンがうまくできていると思った国はありますか?

実は、中国のサプライチェーンはとても良く出来ていました。商品棚に穴があることがほとんどありませんでした。人件費が安いので単純に多くの人員を在庫管理に割けるというのが理由だと推測します。

―日本ではいつ頃からサービス展開する予定なのでしょうか?

日本では今年の9月、10月にもサービスのパイロット事業を開始しようと思っています。名前は明かせませんが、複数の大手小売企業と提携する話が進んでいます。

ーすごく早いですね!商品をAIに覚えさせる準備もしているのでしょうか?

日本にいる間は、毎日50種類くらいの食品を買ってます。毎回、店員さんに『この人何してるんだろう?』っていう目で見られていますね(笑)。

でも、私たちの画像認識AIは普通のものとちょっと違って、ラベリング作業の手間がすごく少ないんです。

NeuromationというAI企業とパートナーシップを組んで、合成データを使ってデータのラベリングをしています。普通の画像認識AIを学習させようとすると、いろんな角度・影で商品を登録しないといけないのですが、合成データがあるので、一度写真を撮ればそんな手間は必要ないんです。

実は、NeuromationもMewcket編集部は今年4月に取材済みです!

元国連総長・潘 基文も応援!OSA DCは飢餓をも救う

―CEOのIsaiev氏のブログで、元国連総長とミーティングしたという投稿を読みました。具体的に何について話されたのか教えて頂けますか?

超笑顔のIsaiev氏。画像は、Isaiev氏のMediumより

そうです。先日、CEOのAlexが韓国にて元国連総長の潘 基文氏とランチミーティングをしました。

潘氏はOSA DCの飢餓問題の解決策になる潜在的な力について評価してくださったようです。

突然ですが、現在、生産された食品が世界でどのくらいが捨てられているか知っていますか?

―3分の1と聞いたことがあります。

そうなんです。世界全体で3分の1もの量が捨てられていると言われています。 でも、その一方で食べるものがなくて飢えている人がいるのも皆さんご存知の通りです。

この廃棄の一因になっているのが、サプライチェーンと購入後の家庭での廃棄なんです。

まず、サプライチェーンは、先ほども言ったようにデータ管理と信頼性の問題によって、商品が足りなくなることもあれば、余って捨てることも沢山あります。

ここは、サプライチェーンの改善によって、OSA DCが解決できるところだと思っています。

あと、ユーザーデータに基づいた購入レコメンデーションによって、消費者が本当に自分に合ったものだけ買えるようになれば、家庭での廃棄も減るでしょう。

OSA DCが小売を改善できれば、もっと大きな飢餓という問題に対しても解決策が投じられるはずです。そして、そこが潘氏から評価していただけた点だと思います。

―お話ししててこちらもワクワクしてきます。小売業界だけでは止まる話ではないんですね。

僕たちはさらに、医療業界ともコラボする予定です。

人が食べるものとその人の病気の関係性は未だ不確かなところが多いのですが、OSA DCで集めたユーザーの食品購買情報と、ユーザーが提供した医療情報を合わせて、食品とその人がかかりやすい病気の関係性をより明確にしていきたいと計画しています。

小売から飢餓問題、医療分野へと驚くほどの広がりを見せるOSA DC

消費者は、商品の広告にかかる分のお金を払わなくていい未来が来る?!

―OSA DCで、消費者の購買行動そのものも変わりそうですよね。広告がうまい商品ではなくて、目立たないけどいい商品が見つかりやすくなりそうです。

その通りです!

現在、商品の値段の25%がマーケティング分のお金だと言われています。つまり、消費者は商品を買っているつもりでも、そのうちの4分の1はその広告に支払っているんです。

OSA DCはこれを変えます。

AIからの商品サジェストによって、消費者は自分に合った商品を自分の好み、そして栄養面から選ぶことができます。

私たちは企業と広告提携することはないので、特定の企業に偏ってサジェストすることはなく、全てユーザー情報に基づく、栄養面ベース・好みベースでサジェストします。

―そうすると、何が起きるのでしょうか?

消費者はマーケティングの上手・下手に惑わされることなく、購買を行うようになります。

これは、企業にとってもメリットです。マーケティングの代わりに、商品の質自体にお金をかければ、それが人気に直結するからです。

―また大きい話になりましたね…!マーケティングが要らなくなる未来が来るかもしれないんですね。商品の価格も安くなるんでしょうか?

マーケティングの必要性が相対的に下がり、またサプライチェーンの改善によって廃棄が減れば、商品の価格自体も大幅に―私たちの予測では50%まで―下がる可能性があると見ています。


OSA DCが描く未来は、消費者が簡単に賢い購買選択をできること、広告に頼らずいい商品が消費者に認識してもらえることだ。

目指す未来の実現のため、OSA DCチームは日々世界を巡っている。

「今日はもう東京での商談はなさそうなので、一旦モスクワに帰って家族と過ごして、その後またソウルに行きます」

Musselius氏は、取材中にモスクワ行きのチケットをスマートフォンで予約しながら、そう答えた。ここ3ヵ月くらいは「自分の家がどこなのか、正直わからない状態です」と笑う。

世界中の小売店で、OSA DCのテクノロジーを目にする日も近いかもしれない。徹底的に素早く行動する彼らを見ていると、そんな期待を抱かずにはいられない。

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