「日本人は漠然とAIへの不安を抱えている」、グローバルから遅れを取る日本は活路を見い出せるのか

超少子高齢化社会の到来により、2030年には約900万人の労働力が不足する(※1)。労働力不足により人とAIの協働は不可欠と言われているが、AI活用への意識において、日本はグローバルよりも遅れが見られ、「日本はAIへの意識・行動変革が必要だ」とアクセンチュア株式会社は指摘する。

労働者の意識・行動変革を進めるとともに日本の技術、データの強みを活かして独自のAIとの協働モデルを確立することで、経済成長も見込めるという。日本が進むべき「AIとの協働」への道を探る。

グローバルではすでにAIとの協働に着手している

アクセンチュア株式会社は5月28日、「雇用・働き方の未来 人とインテリジェント・テクノロジー」と題した記者説明会を開催。同社戦略コンサルティング本部人事・組織管理マネジング・ディレクターの宇佐美潤祐氏が概略を解説した。

インテリジェントテクノロジーとは、コグニティブテクノロジー(認知技術)、アナリティクス、ロボティクスを含めて「広義のAI」としてアクセンチュアでは定義している。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 人事・組織管理マネジング・ディレクターの宇佐美潤祐氏

アクセンチュアでは毎年、「テクノロジービジョンに基づく、雇用、働き方、人事戦略に関する考察」を発表している。それによれば2018年は「人間とAIの協働」をテーマとし、AIを活用していくことができれば、グローバルの全業界で2022年には38%の収益拡大、10%の雇用増加ポテンシャルがあると推計している。

インテリジェントテクノロジーの活用に関する意識調査(※2)においては、経営者と労働者ともに、AIの戦略的重要性を理解しつつも、労働者では半数近くが不安を抱えていることがわかった。しかし、経営層の60%が、AIの進歩を踏まえて社員の再教育への投資を増加させると回答。また労働者も68%がAIと協働するために新たなスキルを習得することが重要だと回答している。この結果から宇佐美氏は、グローバルではAIとの協働への取り組みに今、着手し始めたステージに入ったと説明した。

日本人労働者が漠然と抱えるAIへの不安

今回の調査から日本人労働者の25%はAIが自身の仕事にどのような影響をもたらすかイメージできていない。また、AIに対してポジティブな感情を持つ労働者は22%に留まっていたことがわかった。

アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクターの保科学世氏

デジタルコンサルティング本部マネジング・ディレクターの保科学世氏は、「調査では『スキル習得の重要性の理解』、『具体的なスキル習得の取り組み』ともに、日本とグローバルとの乖離が大きいということがわかった。日本はAI技術への教育機会がなく、自主的な活動もない、だからAIへの理解が十分ではないということが示唆できる」と述べ、グローバルより日本の方がAIに対して漠然と不安を抱えている人が多いことが考察できると話した(下記図表参照)。

「雇用・働き方の未来 人とインテリジェント・テクノロジー」でのスライド【同社提供資料】

これらの状況を踏まえたうえで、アクセンチュアは人間とAIの協働による効果を最大限に引き出すために、企業として仕事のあり方・働き方への変革が求められていると指摘する。

具体的には、①日本型AI協働モデルを前提とした業務プロセスの再考、②人間とAIの協働を見据えた教育機会・コンテンツの提供、③人間とAIの協働の効果を最大化するコラボレーションの最大化――の3点を提言した。

アクセンチュアはこれらの調査結果から得られた3提言を推進していくことで、「日本はAI活用による潜在的経済効果が高い」とまとめている。企業がAIを最大活用した場合とそうでない場合を比較すると、経済成長率への影響の差が2035年時に約3倍とほかの先進国より大きくなる。反対に活用できない場合は、経済成長率はほかの先進国よりも低くなると予測している。競争力の維持・強化にAIの活用は不可避だと保科氏はまとめた。

日本型AI協働モデルでグローバルにおける優位性を確立

日本は高品質なサービス・接客を行う人間の層が厚く、データの品質・量の双方でグローバルに対して優位な立場にある。世界最高水準である日本のサービス・接客ノウハウを活用し、日本レベルの要求がクリアできるAIを開発できれば、世界に通用するサービスが実現する。保科氏は「高い要求に応えられるAIは世界に通じる」と強調した。

また、人とともに働くAIということを考えると、AIが脳であるならば、「手」や「足」となる部分も必要になるだろう。日本は産業用ロボットが非常に強い。AIとの協働時代において、この優れた産業用ロボットが「手足」となることで発展性は高いと期待している。

保科氏は教育機会として、AI開発・活用するための技術的・学術的な知識やスキルも重要ではあるが、「人間とAIとの協働のあり方」を問うことこそがAI教育の根幹にあると指摘。またコラボレーションにおいては、AIを活用するにあたり、自社内開発のみならず、社外との連携を行う企業はそうでない企業と比較し、約2倍のスピードで企業価値を向上させていることも説明した。

記者からの質問に回答する保科氏(右)

日本はAIとの協働という場面において、ポテンシャルを秘めているものの、課題も多い。日本がAI活用に成功するかしないかは企業1社1社、労働者1人1人にかかっている。超少子高齢化社会で労働力が減少する日本において、近い将来AI活用が成功したのかどうか、その評価が下させることになるだろう。

(※1)厚生労働省雇用政策研究会「平成27年度雇用政策研究会報告書:経済成長と労働参加が適切に進んだ場合の推定就業人口」

(※2)アクセンチュアでは、日本を含むアメリカ、中国、インド、イギリス、ブラジルなど11ヵ国を対象にしたインテリジェントテクノロジーの活用に関する意識調査(2017年9月~11月)を実施した。対象者は消費財から金融までの幅広い業種の18歳以上の経営者と労働者1万527人。

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