19歳で事業売却? PoliPoli伊藤氏の決断
「俳句が好きすぎて、俳句アプリを作った19歳の大学生」そう聞いたらあなたはどんな人物を思い浮かべるだろうか?
スマホはあえて持たず、ガラケー。和装で、文庫本を片手に神保町を闊歩―――。
そんな「渋い」大学生を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
しかし、俳句投稿アプリ『俳句てふてふ』を作った現役慶應大学生・伊藤和真氏は、そうしたイメージからかけ離れている。
「昔からダンスが好きで、中3と高1の時に、ニューヨークにダンス留学してました。HIPHOPとかもすごい好きです」
俳句好きな大学生のイメージとは真逆と言ってもいいような伊藤氏。実は、起業家としての顔も持つ。トークンエコノミーで日本の政治にイノベーションをもたらすべく、株式会社PoliPoliを起業した。
しかし、伊藤氏曰く、「すべての始まりは、俳句にある」そうだ。
「僕は、おそらく、『俳句をきっかけにスタートアップ界隈に入った』唯一の人間です。スタートアップに入るのはおろか、自分で起業するつもりなんて本当に全くなかった」
「我が子のように愛しい」と伊藤氏が語る、アプリ『俳句てふてふ』。現在、毎日新聞社への事業売却が決定している。
なぜダンスに明け暮れていた青年が俳句アプリを作ろうとしたのか。そして、俳句アプリが切り開いた「起業家」の道―――。伊藤氏の多彩な人生に迫る。
「顔も見ずに、異性を口説くってかっこいい…!」
ー 完全に偏見ですが、全く俳句を作るタイプに見えないです。俳句とはどのように出会われたのでしょうか?
高校の古文の授業で、昔は、和歌で異性を”落としていた”と習って、「和歌で好きな人を口説くとか、イケてる!」と単純に思いました。
「自分も俳句で落とせたらかっこいいな」と思ったのがきっかけです。しかも、短歌とか川柳よりも、俳句は簡単なんです。
ー では、高校生の頃から俳句を披露したりしていたのでしょうか?
そういう経験から、「俳句好きな人が気軽に自分の俳句を投稿できるアプリがあればいいな」と思いつき、大学に入学した4月からプログラミングコミュニティに入って、2ヶ月くらいひたすらコードを書き続けて、アプリを自作しました。
俳句を投稿できるだけじゃなくて、他のユーザーの俳句に「いいね」できたり、季節にあった季語の一覧を付けるなど、俳句初心者でも楽しめるように工夫しています。
ー リリース後のアプリの反響はどうでしたか?
全く広告を打たなかったんですが、じわじわと俳句好きの中で広がっていって、ユーザーは4桁を超えました。今は、AppStoreで「俳句」と検索すると、一番上に出てきます。
僕にとって、俳句てふてふはインターネットのイメージを大きく変えてくれた存在でもあるんです。
それまでインターネットは、罵詈雑言がすごいイメージがあって、僕の中では冷たい場所という感じがありましたが、俳句てふてふをリリースしてからは、ユーザーの人たちのポジティブなコメントが流れてきて「インターネットあったかい…!」とびっくりしました。
起業やスタートアップに興味を持ったのも、このアプリがきっかけです。
昔だったら、一つのサービスを作るのにも数十億円かかったりしましたよね。それが今は、僕のような普通の大学生が1円もかけずにプロダクトを作れて、しかも数千人がそれで動いてくれた。自分で発信してユーザーが生まれることが、すごく面白いなと。
インターン先VCでのホウレンソウは、俳句で
ー 「俳句がきっかけでスタートアップ界隈に入った」ということですが、具体的にどういうことがあったのでしょうか?
Tech in Asiaというスタートアップのイベントに行って、F-Ventures(※福岡を拠点とするベンチャーキャピタル)の社長と知り合ったんです。
向こうもこっちを気に入ってくれたのか、F-Venturesの東京拠点でインターンをすることになりました。「拠点」と言っても、スタッフは僕1人だったのですが(笑)…。
ー 1人?!その時まだ大学1年生ですよね…?どんな仕事を任されたのでしょうか?
F-Venturesは、福岡が拠点なのですが、東京のスタートアップにも投資をしています。そこで、僕は唯一の東京スタッフとして、イベントを開いたり、起業家と知り合いになって投資先を探したりしました。
昔は「仕事している大人って一体何しているんだろう」と疑問に思っていました。でも、VCを通して出会った大人たちはすごく優秀で、仕事についての価値観も変わりました。怒られたりもしましたが、いい経験です。
「愛しい我が子」を売る理由
ー 毎日新聞社へのアプリ売却はどのような経緯で決まったのでしょうか?
毎日新聞社でPoliPoliについて発表する機会があって、そこで「昔はこういうアプリを作っていました」と俳句てふてふのことを紹介しました。
そしたら、社員の方が、「知ってる!」と言ってくださって。毎日新聞社さんは、ちょうどこれから俳句関係に力を入れていこうとしていたらしいんです。そこから話がどんどん進んで行って、売却することになりました。
ーでも、『俳句てふてふ』を手放すのは悲しくなりそうですね……。
いや本当に我が子のように愛しいので、寂しさはあります。
でも、売却後も僕はリニューアルとか開発面で関わっていこうと思っています。てふてふは俳句だけでなく川柳や短歌などの市場を狙ったり、デザインも含めてかなり作り変える気でいるので。
ーそれは楽しみですね!売却で得た資金は、どう活用していくのでしょうか?
全部、起業したPoliPoliのために使います。アプリを作ったのは、僕なんですが、今回は、僕個人からではなくて、PoliPoliから毎日新聞社へ売却するということになっているんです。だから全部PoliPoliのお金になります。「僕が作ったのに!」という気持ちも無いとは言いませんが(笑)、今は会社が何よりも大切なので。
自分の夢のために、初めて作ったプロダクトの売却を決めた伊藤氏。
今回の取材は、本当はPoliPoliについて聞くために行なったものだったのだが、「俳句のこと、めっちゃ話したいんですよ!」という伊藤氏からの熱い希望で、俳句てふてふについても取材することになった。(PoliPoliについては、また別記事として公開されます。お楽しみに!)
俳句について話す伊藤氏はとても生き生きとしていて、「本当に俳句が好きなんだな」と伝わってきた。
毎日新聞社で『俳句てふてふ』がどのように活用されていくのか楽しみだ。そしてもちろん、伊藤氏が今回の売却で得た資金で、これから自分の会社をどう動かしていくのかにも目が離せない。
最後に、伊藤氏の今の気持ちを表した俳句を作ってもらった。2つ作ってくれたが、せっかくなのでどちらもシェアしてこの記事を終わりたい。どちらも「自由に生きていきたい」という思いが込められた、極めて伊藤氏らしい俳句だ。
春隣 スーツケースに 腰掛けて
春風を 使ひ果たして 森の中
(PoliPoli 伊藤和真)