「AIのプロフェッショナルは自社で育てる」、ITコンサルティング企業発のAI教育・認定プログラムが動き出す

技術革新が目まぐるしい速度で進んでいる最中、社会やビジネスのシーンにおいて日々イノベーションが起きている。そして、そのイノベーションにはAI やIoTなどのIT技術が欠かせないものになっている。新しいAI、新しいAI製品が続々誕生しているが、その技術を深く理解し、実業務として有効に活用していくことはできているのだろうか。今、高度な知識と実践的なノウハウを持つプロフェッショナル人材が求められている。

フューチャーグループは、「ITコンサルティング&サービス事業」と「ビジネスイノベーション事業」の2軸でテクノロジーをベースとしたビジネスを展開している。グループには、長年にわたり多種多様なお客様にITコンサルティングサービスを提供してきたフューチャーアーキテクトやアッパー層向けのリアルライフスタイルメディアの東京カレンダーなどがある。

「経営とIT、そしてAIをデザインする」をスローガンに掲げ、AI分野を事業の中核として強化していくことを推進している。その一環として、企業や社会に対しプロフェッショナルとしてのサービス提供ができる高いスキルを有したスペシャリストを育成するために、AI教育・認定のオリジナルプログラム「Future AI Certification」を2018年4月より開始した。

世界のIT市場は今、同時多発的に進化。特に中国が台頭してきている

IT分野では今、中国が世界を圧倒している。それは中国人エンジニアがオープンソースをうまく活用していることが理由のひとつとしてあげられるとフューチャー執行役員の中元淳氏はいう。

「中国のテンセントは時価総額でFacebookを抜きました。中国はマーケットが大きく、ニーズもありますが、そこを狙って世界中から多くの人も集まってきます。それゆえ、あらゆる面で競争が生まれており、世界でも有数なIT激戦区になっていると言えるでしょう。その中でどう戦っていくかというと、中国人エンジニアはオープンソースを活用するのが非常に長けていると思います。オープンソースを活用することは彼らの中では当たり前なので、必然的に開発スピードはあがります。そのスピードと実行力といったものが掛け合わされて、さまざまなイノベーションが次々に生まれているのです。また最近では、学術的な分野においても中国で発表される論文が多くなってきています。しかし、0から1を作るという場面においては、やはりシリコンバレーの方がリードしています」(中元氏)

中元氏はもうひとつ、注目している国があるという。それは電子立国と呼ばれるエストニアだ。

「エストニア政府の機関システムでオープンソースが使われているそうです。オープンソースを使うことに対し、セキュリティー面において危惧されていましたが、それを払拭するように開発を続け、今では世界最強のセキュリティーを誇ったシステムになっています。そのシステム構築を担当した政府CIO(最高情報責任者)は39歳と若く、バルト地方でNo.1のソフトウェア開発会社の起業家だそうです」(中元氏)

執行役員の中元淳氏。スマートフォンを使って10秒で農業日誌を記録できる農業経営支援アプリ「Agrion」を提供するTrexEdge社の運営にも携わっている

AI専門家はまだ少ない。だから自社で育てる

フューチャーは、機械学習・深層学習などのAI技術をいち早く実際のビジネスに利活用するプロジェクトを数多く進めている。そのプロジェクトの担い手となる、フューチャーのITコンサルタント向け能力開発プログラムとして、Future AI Certificationが始まった。

「AIと一言で言ってもいろいろあり、さまざまな分野で活用されています。そして、それら各AIの技術革新は日々目まぐるしく起きており、常に進化をし続けています。例えば画像認識の分野でいえば、ディープラーニングが脚光を浴び始めたのが2012年頃、そして、2015年には人間の認知する能力を超えるまでに進化しました。たった3年間での話です。そんなスピード感あるAIですので、まだまだ専門家といえるような人は少ないという現状があります。そのため、当社では社内で育成し、AIのプロフェッショナルといえる人材を確保していこうとして始めたのがAI教育・認定のオリジナルプログラム『Future AI Certification』になります」(中元氏)

Future AI Certificationの認定レベルは次の4つ。①「Basic」:AIの理論と実装の基本理解レベル、②「Standard」:AIを活用したコンサルタント実務遂行レベル、③「Professional」:AI専門チーム(フューチャーのStrategic AI Group)へ参画レベル、④「Advanced」:先端アルゴリズム、自然言語解析や需要予測等に関するインダストリ・ケース・スタディ―になる。

「プロフェッショナル集団としての付加価値を向上させるため、2018年夏までに当社ITコンサルタント全員がBasic認定を取得できるよう教育を行っている最中です。また、今後は一般の方にも機会を提供し、社内外を問わず広くAI人材の育成に貢献していく予定です」(中元氏)

AI教育を担当するStrategic AI Groupシニアコンサルタントの岩田匠氏は、「Basicはフューチャー独自のコンテンツになります。AIが発展してきた歴史から始まり、AI活用事例や実務で使われているプログラムの実装などを学んでいきます」と話す。

Strategic AI Groupシニアコンサルタントの岩田匠氏。Future AI Certificationでは、講師として登壇している

世界標準となるオープンスタンダードのソースを活用

フューチャー独自のコンテンツに加え、スタンフォード大学が授業で活用しているCoursera(コーセラ)などの外部講座も積極的に活用するという。フューチャーは独自のAI製品を持っているわけではない。それゆえ、世界のスタンダードをITコンサルティングに落とし込んでサービス提供している。今回のFuture AI Certificationにおいても、世界標準となっているオープンスタンダードのソースを活用して教育していくスタンスだ。

「Basicを修了した受講生は、その後自分の興味があるAI分野を選択し、突き詰めていけるようになっています。オープンスタンダードのものを学んでいけるので、選択肢は多岐に渡り、柔軟に学んでいくことができます。当社ITコンサルタントの場合、受講費用は会社負担であることのほか、『Professional』を修了したならば、当社が進めるAIプロジェクトにアサインすることもできる。そこがモチベーションに直結し、面白みにもなっていると思っています」(岩田氏)

「世界のスタンダードを学ぶことで、日本でしか通じない知識や技術といった『ガラパゴス化』は防げると思います。世界のスタンダードを理解し、それに沿った能力開発がIT分野では重要だと考えています。AIはすでにツールのひとつとなっており、多くのAIがさまざまな用途で実装され、活動しています。AIが登場してからまだ歴史は浅いですが、当社がITのプロ集団としてサービス提供していく上では、決して避けられないものになっています」(中元氏)

事前にビデオで60分AI、機械学習、Deep Learningの歴史と概要を学んだ後、講義(写真)が行われた。この講義ではハンズオン形式で、Kerasを使ったCNN(畳込みニューラルネットワーク)の実装と最新技術動向がレクチャーされた【同社提供写真】

プログラミングスキルを持つITコンサルタント育成

フューチャーグループにはおよそ1,000人のITコンサルタントがいて、全員がプログラミングを組むことができるという。

「経営改革やビジネスモデルを検討する際にも、ITコンサルタントとして表面だけを理解するだけではなく、実際にコードまでも書けてこそ、実現できるものかどうかを判断できる。そこが重要だと考えています。実現できないビジネスモデルでは、絵に描いた餅で終わってしまいますから」(中元氏)

ITコンサルタントとしての業務を遂行していくためには、あらゆる業界で、会社の基幹システム、情報システム、ソリューション知識などを理解しておく必要がある。フューチャーでは3ヵ月の新人研修で、しっかりIT技術を叩き込む。JAVAなどのプログラミング言語やサーバーサイド、システム構築など一通り研修を行い、その後もOJTで教育は続けられる。

「新人は理系文系が6:4ぐらいなのですが、研修が終了した頃には、ウェブサイトを補助なしに作れるレベルになっています。実際、当社のAIチームトップである私は元々、大学の専攻は法律でしたが、ITやAIを学んでAI事業に関わるようになりました」(中元氏)

IT、AIを活用し、さまざまな事業へチャレンジ

フューチャーグループは、ITコンサルティングをはじめ、東京カレンダー株式会社やプロスポーツのIT武装を支援するライブリッツ株式会社、オンラインのプログラミングスクールを展開するコードキャンプなど、さまざまな事業やサービスを行っている。

社員のキャリアアップの一環として、社員自らがある事業を作り、それを法人化させてその会社の社長を経験できるチャンスもあり、グループ会社の一つで、ITで地方創生に取り組む株式会社TrexEdgeは、まさに社内ベンチャーから誕生した。グループマーケティング室室長の大澤桃子氏は「これまでコンサルティングで培ってきたノウハウを今度は経営者として実践できるので、キャリアアップを目指す社員にとって大きなモチベーションとなっています。今後もグループ企業のコラボレーション強化とシナジー拡大を図り、こうした機会を増やしていきたい」と話す。

グループマーケティング室室長の大澤桃子氏。グループ全体の広報を担当している

ITやAIを駆使することでさまざまなシーンへの可能性を秘めている。それには、日本だけで完結しないITの業界において、共通言語となる世界のスタンダードを理解していることが前提になっているようだ。昨今、日本社会のさまざまな分野でAI活用の必要性が騒がれているが、日本独自の発展を目指すより、「世界のスタンダード」を活用していくことが日本の課題解決への近道になりそうだ。

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